第171話
『『ココロ』は幼子より弱く脆い』
以前創造神に言われたセリフだ。
その言葉を忘れてしまい、さくらに感情をぶつけてしまった。
それもさくらが一番弱い『怒気』を。
ふたたび『さくらのココロ』を傷つけてしまったのだ。
そんなさくらに、ヨルクは何事もなかったかのように軽々しく『帰ってこい』とはとても言えない。
「たぶん、さくらは此処に来ると思う。そうしたらさ。何も聞かずに相手してやってくれないか?もしさくらの気持ちが落ち着いても『帰りづらい』と言うのなら、ハンドくんを通じてオレたちを呼んでくれ。すぐに誰かが迎えにくるからさ」
きっと、さくらにとってジタンの存在は『安心出来る避難場所』だろう。
さくらやハンドくんたちの存在を知り、オレたちのこともよく知っている。
さくらがオレたち以外で気兼ねなく『話が出来る』数少ない相手なのだ。
そして、『さくら』と『外の世界』とを繋ぐ大事な梯でもある。
オレやヒナリは兎も角、ドリトス様やセルヴァンでさえも『さくら』を守ろうとするあまり『結界内』から出さないようにしてしまう。
『目の届く範囲』から出そうとは思わなくなる。
それは、体力が回復して自由に動けるようになったさくらの行動を制限して『束縛』している。
・・・そして今朝の『お出かけ』に結びついた。
さくらのことを信用しているドリトス様にだったら、ちゃんと話して笑顔で送り出してもらっただろう。
さくらのことを誰よりも一番心配するものの、さくらがしたいことなら基本何でもやらせるセルヴァンになら、ちゃんと説明してやはり送り出してもらっただろう。
それにオレも。
ハンドくんたちがついているのなら『誰かがついていく』よりも安心だと思っている。
・・・そして問題なのがヒナリだ。
反対するか「一緒に行く!」と言い出すか。
一緒に行っても、きっと「これダメ!」「それダメ!」「あれもダメ!」「どれもダメ!」と言い出すだろう。
それでは何も楽しめない。
さくらは二度と出掛けなくなってしまうだろう。
「ヨルクは『そのこと』について、どう考えているのです?」
「オレか?」
ジタンの質問に「ウーン」と唸りながら腕を組んで天井を見上げた。
どんなに考えても『自分の言葉』として出てこない。
そして諦めて「これはドリトス様の受け売りなんだけどさ」と前置きをする。
「『さくらが『さくららしく』居られるのなら何処で何をしていようと構わない。ただ、オレたちのことを『帰る場所』だと思ってくれればなお良い』。このドリトス様の言葉にオレも賛成なんだ。・・・多分セルヴァンも同じだと思う」
そう。これからも何処かへ出掛けて行っても、今日みたいに笑顔で「ただいま~」って帰ってきてくれればいい。
そして『土産話』をいっぱい聞かせてくれたらいい。
・・・本当に『それだけ』でいいんだ。




