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第17話





「数々の非礼を、父レイソルに代わり謝罪致します」


レイソルの息子と名乗るジタンは、父親と違い礼儀正しい青年のようだ。



この国の呼び名は王太子?殿下?


『どちらでも』


ありがとう。

アリスティアラに呼び方を確認して、ソファから立ち上がり立位で挨拶を返す。


「お初にお目にかかります。王太子様。(わたくし)は『さくら』と申します。此方こそ宜しくお願い致します」


私の挨拶に満足したのか、ジタンは嬉しそうに笑顔を見せる。



『ネコを何匹被ってます?』


最低10匹。


『それもただのネコじゃないな』


『猫科の猛獣か』


今は木天蓼(マタタビ)で大人しくなっている、(たてがみ)の素敵なライオンさんです。


『出たな。『モフモフ』病!』


モフモフは正義です!!


『バカが寝た(ライオン)を起こさない事を願ってる』




ジタンはまだ15歳前後といった外見だが、チャランポランな父親のせいで精神的に大人になっている様子。


「ジタン。『乙女の魔石』なんだがな」


私をソファに座らせたドリトスが騒動前の話をしてくれる。

私相手にぼったくりを図って天罰を受けたことを知り、ジタンは驚きで口が少し開いている。


「さくら様!大変申し訳御座いません!『乙女の魔石』は貴重な品で、1個でも金貨800枚は下りません」


それを銀貨10枚なんて・・・

私たちは如何なる『天罰』を受けても仕方がありません。


そう言って、只管(ひたすら)頭を下げ続けるジタンは見てて痛々しい。


うん。前回『乙女の魔石』を出したときに鑑定したけど、『乙女の魔石 金貨800枚』って表示されていたんだよね。

アリスティアラに聞いた時は『金貨500枚は下らない』って聞いていたけど・・・『乙女の魔石』が枯渇してるらしいから、値上がりしたのかな?


金貨1枚が日本円換算で一万円。

銀貨1枚で千円。

銅貨1枚が100円。


この世界にはその三種類しかないそうだ。

そしてどの大陸も硬貨自体は変わらない。

ただ、『乙女の魔石』を別の大陸で売ったら「金貨1,000枚は下らないわね~」とのこと。

金欠病になったら、「身なりの良い人を生命にかかわることで助けたらお礼で貰った」と言って、1個ぐらい売っても良いかもしれない。


そんな貴重なアイテムを、『何も知らないハズの私』に素直に代金を提示するとは。


気に入った!

マジでこの子に譲位させない?


『まだ20歳になったばかりだ』


『今は国王の補助的立場でしかない』


えー。『今の私』より2歳上かぁ。

大人びているよね。

・・・やっぱりレイソルの『焼滅』を。


『それはダメですって!』


・・・やっぱり、レイソルの手足の1本でも『焼滅』を。


『その気持ちはよ〜〜〜く分かるが、な』


創造神のチャットの直後、何処か遠くで「ギャー!」という叫び声が何度も聞こえた。


『これで我慢しろ』


・・・・・・わかりました。

仕方がないから、『今は』我慢しましょう。



ここまで聞こえた叫び声で、アストラムが「ヒェ!」と怯えた声を出した。


「大丈夫ですよ〜。ちょ〜っと創造神様が『天罰』の手を強めただけですから」


ああ。そう言えば貴方も彼らと『同罪』でしたよねぇ。

その言葉にアストラムはすごい勢いで首を左右に振る。

汗か涙か分からないものが飛び散ったが、同情より『軟弱者』としか思わなかった。


届いた悲鳴にやはり顔を上げたジタンは、治療院の方向に顔を向けていたが、私の言葉を聞いて顔を引きつらせた。


「ジタン様。創造神様は、他の方々に天罰を与えるつもりも肩代わりさせる気も御座いませんよ」


そうですよね?と創造神に確認すると『『様』付けは気持ち悪い』と方向違いの返事が来た。

仕方がないでしょう?

貴方はこの世界で『最高位』の神様なんだから。

他人には敬称付きで話さないと。

もちろん内輪の会話では、敬称なんか面倒くさい(うっとーしい)から付けませんけど、と言ったら『それならよい』と返事がきた。


思わず『良いんかい!』とツッコミを入れたら、『かまわん。無礼講じゃ』と返ってきた。


ああ。そうでした。

貴方は『私の世界』に行ったことが何度もあるから、『時代かかった言葉』とか『時代劇でよく聞く古ぅーい言葉』とか知ってるわよね。


創造神を揶揄(からか)ったら、チャット着信。

『ずーん』という言葉の後ろに『orz 。。。』も登場。

ヤバいヤバい。

思わず吹き出す所だったわ。


創造神からは『悪い』と謝罪がきた。



裏でそんなバカな会話(チャット)をしてると知らないジタンは、複雑な表情をしていた。


「天罰は自身の悪い行いに対して『神々が与えた(ばつ)』です」

「本人が罰を受けなければ意味がありません」

「他者が肩代わりして罰を受けることは、たとえ家族であっても出来ません」


「ジタン。これは仕方がない事じゃ」

「ワシらが何度止めても、お主の父たちは『女神に愛されたさくら殿』に繰り返し無礼を働いておった」

「いま受けておる罰は『当然の報い』なんじゃ」


「そこのアストラムも同じだ」

「レイソルたちの無礼に便乗していた」

「『女神に愛されし娘』という肩書きを持ち、女神自らさくら殿の召喚を伝え、女神様はこの部屋に御降臨もなされた」

「それなのに、何故さくら殿に対して考えを改めない!」



・・・『御降臨』って言うより、『思わず飛び出しちゃった』だよねー。

私に指摘されるまで、自分のいる場所に気付かなかったんだし。


『・・・お恥ずかしい限りです』


でも、アワアワしてるアリスティアラも可愛かったよ〜。


『からかわないで下さい!』


からかってないよー。

ホントの事だもん。



「アストラム。お主は『一族を代表』してこの場に()るのではないのか?」

「お主の一挙手一投足はエルフ族の総意」

「エルフ族はさくら殿に敬意を払うつもりはない。神がそう判断して一族に『滅びの天罰』を与えたとしたら、お主はどう申し開きをする気か」


ここまで言われて、アストラムはようやく自身の立場に気付いたらしい。



「今更気付いても遅い!」


突然響いた創造神の怒鳴り声。

それは空気全体から聞こえた気がした。

自分に超巨大なスピーカーを向けて並べて、マイクの音量を最大にして怒鳴ったようだ。

マイクと違い、音割れはしていない分、怒気が痛かった。

そして同時に大音量のシンバルとスポットライト・・・もとい、雷鳴と雷光で目の前が青白くなった。

「ウワッ」って叫んだ瞬間、セルヴァンが私を守るように覆い被さってきた。

セルヴァンの『モフモフ』に、驚きで早まった心臓が落ち着きを取り戻す。


『スマン。大丈夫か』といって回復してくれた創造神に、「大丈夫じゃなーい!」と返信。

よくまあ鼓膜が破れなかったと思うよ。


『神だからな。耳鳴りなど一時的な影響はあっても、鼓膜を破るなど人体に直接の影響は与えていない』


どことなくエラソーだな。


『創造神だからな』


この世界の上位神は、思わず降臨したり我を忘れてキレたり。

困ったもんだなー。


『『ずーん orz 。。。』』


創造神とアリスティアラが同じチャットを送ってきたよ。


・・・ホント、困った神々だ。


『『(ダブル)でずーん orz 。。。』』


・・・・・・いい加減にしなさい!


『『更にずーん orz 。。。』』


・・・・・・・・・もう放っとこ。




強い光で真っ白だった部屋の中が、光が弱ってきたのか少しずつ物と人の輪郭が見えだして、色も取り戻し始めた。

『感知』魔法で周囲の状況を確認する。


ジタンは耳を塞いで、目を強く閉ざしてしゃがみ込んでいる。

ドリトスは目を閉じて俯いているが、変わらず立っている。


『ドワーフは、すべてにおいて強靭な身体を持っている』


だから驚きはしたが普通に立っていられたんだ。


セルヴァンは私を抱きしめて、目を強く瞑っている。

彼は犬種の獣人だ。

と言うことは聴覚と嗅覚が鋭いと言うことだろうか。

それなのに、耳より私を守ることを優先してくれたのだ。


『『忠犬の鑑』だな』


『犬種だから』



アレ?『種』によって色々違うの?


『そうですね。あなたの世界の動物と近いかもしれませんね』


今までのセルヴァンの行動を思い浮かべて、思わず納得した。

確かに『犬』に似てるわ。



ドリトス・セルヴァン・ジタンに『状態削除(デリート)』魔法をかける。

突然の状態回復に3人は目を(まばた)かせて、息を合わせたように私を見た。


「さ・す・が創造神様ねぇ。私はすぐに回復してくれたけど・・・怒らせたら怖いわ~」


『全然怖がってるようには見えないけど』というツッコミを貰ったけど、それは創造神がブチ切れる直前に私の目と耳を塞いで被害を軽減してくれた神様たちと、咄嗟に身体を張って守ってくれた『忠犬セルヴァン』のおかげです。

それでも目はチカチカ。

一瞬だけど、怒気で皮膚が静電気のようにバチバチしたし。

耳は高音でキーンと鳴って、頭痛もあって辛かったけど。



え?1人忘れてないかって?

別に忘れていないよ。

アレはアストラムに向けた『天罰』だから。

天罰は神様が許さないとね~。

下手に手を出して怒られたくないもん。

3人は『巻き込まれただけ』だから回復させたのよ。


国内外の民?

アリステイド大陸全体が同じ状態になったみたいだけど、それを回復させなきゃいけないのは私ではない。

原因はアストラムにあるんだから、アストラム自身か『エルフ族』がすべき事。


私の言葉はいまだ『天罰の恩恵』で耳や頭痛が回復していないアストラムには聞こえていない。

虚ろに開いた目も、当分は見えないだろう。



「さくら様。退室の許可を頂けますでしょうか」


「どうぞ。ご随意に」と答えると、ジタンはお礼を口にしてすぐに退室した。

よく動けるなー。

周りはまだ光が強くて位置の把握も難しいのに。


「ジタンの奴、何を慌てているんだ?」


「そりゃあ国民たちの回復でしょ?」


私が回復させたのはここの3人だけだもん。

まず向かうのは、治療院にいる治療師たちの所でしょ。


ところで、この大陸での他国との連絡方法は?


「『乙女の魔石』を媒介にした水晶で、遠隔地とは連絡を取り合えるんじゃよ」


ただし1回使うと、魔石はチカラをなくしてしまうらしい。

普通に魔物を倒して手に入る魔石を使うと、最低でも500個は必要となる上、3分も保たないらしい。


・・・ウルトラマンは怪獣と決着つかないし、カップ麺も作れませんが?



でもそれを使わないと大陸中に現状を伝えられないよね?

馬車のお(んま)さんとか、農耕地のウシさんとかが暴走しちゃうとか。

ニワトリさんが、ショックでタマゴを生まなくなっちゃうとか。

野生の動物さんたちが、パニックを起こして村に突撃するとか・・・


「目が見えない。耳も聞こえない。そんな状態で動物さんたちが暴走しても、逃げられないですよね?」


そして『どうしてこうなった』のか知らなければ、どうなりますか?

創造神様の怒りを受けたのは分かっても、『理由』が分からなければ人は疑心暗鬼に(おちい)りますよ?

1人が2人に。

村単位のパニックが町単位に。

そんなときに「この世の終わりだ」なんて、誰かが言ったらどうなります?

それは『暴動』と言う荒波を引き起こしますよ?


「すぐに対策を取らなくてもいいのですか?」


私の『たとえ話』で、ドリトスとセルヴァンは初めて危機感を持ったようだった。


「我らも失礼して「待って」・・・え?」


私が言葉を遮ると、ドリトスは驚きで目を見開いた。


「前の乙女が亡くなって1年」

「1回の通信で『乙女の魔石』を1個使うんでしょ?」

「他にも大陸間を移動する電車か列車か汽車かSLか、なんて言うのか知らないけど、そういう色々な物にも使ってるんだよね?」

「『他国(2人)』が使わせてもらえるだけの・・・在庫はあるの?」


あの『強欲国王』だよ?

あとから法外な金額を請求されても、『使ったのは事実』だからお金を支払わないといけないよね?



私の言葉で顔を見合わす2人。

他国からの使者だから、この国の詳しい事は分からないだろう。

でも『補充されない』乙女の魔石を、今まで通りに使い続けていれば在庫が無くなるのは当たり前ではないのか?


「はい。あげる」


私がアイテムボックスから『乙女の魔石』を20個出してテーブルに乗せた。

「これは!」とか「こんなにたくさん!」とか驚かれたけど、別に2万個以上あるし。

先日現れた『ケセラン・パサラン』の浄化で溜まった(おり)を魔石に精製すれば良いだけ、とは教えない。


「2人は私に親切にしてくれた。優しくしてくれた。守ってくれた。助けてくれた。だから、それのお礼」


「私は部屋に戻ってるよ。だから早く連絡してあげて。国の人たちを助けてあげて。それで魔石が足りなくなったら、まだまだあるから取りに来て」と言ったら、2人は「すまない」「感謝する」と頭を下げて、魔石を抱えて部屋を飛び出して行った。



すっかり皆から存在を忘れられたアストラムは、変わらず床に倒れた状態で、虚ろな目をしながら時々唸ってる。


「こいつジャマだね」


でも廊下に捨てて誰かの手を(わずら)わすよりは、ここに放置してった方が良いか。


『自業自得だしな』


『『原因』だしな』


『迷惑だけどな』


でもアストラムって、なんか無駄にプライド高そうだよね~。

王宮の廊下に放り出しても鼻をへし折れるよね。

でも、街中(まちなか)の道に倒れた今の状態で『放置』して沢山の人に見られたら、プライドがズタズタになるよねー?

そうなったら、きっと『面白そう』だよね〜。


『ダメですよ!』


・・・やっぱり。

絶対アリスティアラが止めると思った。

だから、スマホを出してパシャパシャとアストラムを撮影。



『まさかと思いますが、プリントアウトする気じゃないですよね』


プリントアウトはするよ。

アストラムを脅す道具としてね。


『脅すつもりなの?』


そりゃあ、今までの言動と今後の態度を改めさせるために。


『正しい使い方だな』


でしょ?

これでエルフ族が『聖なる乙女』に対して見下さなくなれば、問題が一つ消えるよね。


さあ。

部屋へ戻って、ハンドくんの美味しい手料理を食べましょ♪





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