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第167話




エルハイゼン国にあるさくらの部屋。

そのリビングの片隅に置かれた衝立(ついたて)に隠れて鉄扉がある。

その先はさくらのマンションに作られた、ハンドくんたちが使用しているキッチンルームへと直接繋がっている。

その衝立に近い畳が数枚取り除かれてダイニングテーブルが置かれ、さくらはそこに設置された脚の長いスツールに座っていた。



「ハンドくーん。カタクリどこー?」


『『エビの臭み取り』ですか?』


「うん。そう」


『それでしたらコチラでやります。さくらは野菜を切ってもらえますか?』


「煮る時間もあるから『肉じゃが』の野菜から先に切ってくよ」


『はい。お願いします』



さくらはテーブルに防水仕様のタブレット端末を置いており、ハンドくんたちは『チャット』で返事をしていく。

手際よく進んでいく下拵えに、邪魔にならないよう少し離れた場所から4人は感心して見ていた。

さくらが『手伝い』ではなく調理が出来るのは、手際を見れば一目瞭然だ。




「あー。・・・どうしよ」


『『タマネギ』ですか?』


「うん」


さくらが気にしたのは『タマネギを切ると刺激成分が出る』ことだ。

もちろん自分で料理が出来るさくらは慣れているので問題はない。

しかしドリトスは大丈夫かもしれないが、セルヴァンたちはどうだろうか?

特にセルヴァンは『犬種』のため鼻もきくだろう。

さらにここはリビングだ。

タマネギの成分が部屋に充満したら。

そう考えたら手が止まったのだ。


『ではさくらの周囲だけ結界を張りましょう。その後は空気の浄化をすれば問題ないと思いますよ』


さくらは周囲に結界が張られたのを確認すると、タマネギの皮を剥いて手早く切っていく。

あっという間にバットに天ぷら用の、ボウルに肉じゃが用と『かき揚げ』のタマネギを切り終えたさくら。

ハンドくんたちがすぐにタマネギをアイテムボックス経由でキッチンへ運ぶと、結界内に浄化(クリーン)魔法をかける。

さくらはクンクンと衣服にタマネギの臭いがしないか確認する。

「大丈夫かなー?」と気にするさくらに、『結界を解除すれば分かるでしょう』と結界を解除するハンドくん。


「さくら。一体何があったの?」


「ヒナリ。目が痛いとかない?」


結界が張られたことで心配していたヒナリに声を掛けられて首を傾げるさくら。

「何ともないけど?」とさくらと同じように首を傾げるヒナリ。

『大丈夫みたいですね』とハンドくんに言われたさくらは安心したのか「うん」と頷いて笑顔になる。

そんなさくらを同じく心配していたセルヴァンが頭を撫でる。


「何かあったのか?」


『さくらには『切ると刺激臭の強くなる野菜』を切ってもらいました』


辛味(からみ)は水にさらすと落ち着くんだけど、刺激臭は調理しないとダメだから。セルヴァンたちにはツラいと思って・・・」


さくらが自分たちの事に気を配ってくれた事を知り、セルヴァンはさくらを後ろから抱きしめる。


さくらは人一倍周りに気を遣う。

だからセルヴァンとドリトスは、さくらをトコトン甘やかす。

『自分たちには気を遣わなくていい』と。

『自分たちにはワガママを言っていい』と。

『自分たちには甘えてもいい』と。


それでも気付かされてしまう。

さくらは自分たちが気付かないくらい、(こま)やかな気遣いをしてくれているのだと。

それを自分たちに気取(けど)らせず、『当たり前』のようにやってのけてしまうことを。


そして思い知る。

さくらの『優しさ』に気付く度に、さくらに対して愛おしさがつのるとともに、神々がさくらを『()でている』理由にも気付かされる。




他の誰でもない。

『さくら』だからだ。




さくらと出会ってヨルクやヒナリが変わったように、ドリトスや自分も変わったのだろう。


正直、ジタンは大きく変わった。

ヨルクから『大人が子供服を着ている』と揶揄(からか)われるくらい堅苦しい子供だった。

そんな彼がさくらと出会い、今までとは違う『ものの考え方』を知った。

それは大人の『損得を()じえた考え方』でも、『欲を優先させた考え方』でも、『立場を悪用した考え方』でもない。


ただ『ものの見方』を変えただけだ。


難しいことは何もない。

『もしも自分が『相手の立場』に置かれたら』という『想像力』を働かせるだけだ。


それでもジタンには驚きだったのだろう。


今のジタンはまず『こんな場合、さくら様はどうお考えになられるか』と考えるようになった。

正直な話、まださくらの足元にも及ばないが、徐々に『この国を変える』ことが出来ている。



この国はジタンを中心に『良い方向』へと向かって進み出した。




そして、それはこの大陸全体を変えていくのだろう。




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