第163話
「いや。さくらはスゴいぞ。ヒナリなんか何にもできないからな〜」
「ちょっと・・・」
「料理も『ものを作る』のも出来ないだろ」
「それはヨルクも一緒でしょ!」
「オレは『食う』専門で『使う』専門に『壊す』専門」
ハッハッハッと腰に手をあてて笑うヨルクを、さくらは不思議そうに見る。
「アッチは男の人でも料理してたよ。『職人さん』って男の人が多かったし」
だよね。ハンドくん。
目線の先にはタオルケットを掛けたさくらの足をマッサージしたり、足首やヒザを動かしたりとリハビリをしているハンドくんたちがいた。
『ヨルクは何もしない。しようとしない。する気のないことを『自己正当化』しているだけ』
『悪い見本です』
『さくらは決してマネをしないように』
「はーい」
「ちょっと待て!さくら!そこで素直に返事するな!」
「だったらさくらの『良い手本』になれ」
さくらは『にっこり』笑顔で、ピーンと手を挙げて返事をする。
さくらの素直な返事に慌てるヨルク。
そんなヨルクに隣に座るセルヴァンがゲンコツを落とす。
「良いかね?さくら」
ドリトスがきょとんとした表情でセルヴァンとヨルクのやり取りを見ていたさくらの頭を撫でる。
「相手がヨルク以外の誰であっても『悪いマネ』をしてはならぬぞ」
「ヒナリでも?」
「ああ。そうじゃよ」
「セルヴァンやドリトスでも?」
「もちろん。そうじゃよ」
・・・困ったな。
この世界の『良い』『悪い』のラインが分かんないんだけど。
元の世界と基準は同じで良いのかなー?
『大丈夫です』
『さくらは何も気にしなくてもいいですよ』
『マネをしてはいけない時は、その都度教えますから』
ハンドくんの言葉に「うん。分かった〜」と笑顔になるさくら。
その頃、偶然を装って見守っていた神々は、『一番さくらがマネをしたらダメな事をしてるのは『ハンドくん』じゃないか』と誰もが心でツッコミを入れたが、口にすることは控えた。
ハンドくんが何処で聞いているか分からないし、運悪くハンドくんの耳に入れば『愛し子』から引き離される!
少なくとも、明後日の『粉ものパーティー』には間違いなく参加させてもらえないだろう。




