第162話
夕食は午後から作り出すという話に決まった。
それまでにハンドくんたちが材料を用意してくれるらしい。
午前中はさくらのマンションの部屋で過ごすことになった。
ハンドくんたちがさくらの足を動かして『リハビリ』をするそうだ。
そのため座卓の外側で座椅子に座っていた。
ヒナリはさくらが作ると言っていた料理に興味を持ったのか料理の本を見ている。
他の3人も思い思いに本を読んでいた。
さくらは何やら『2本の棒』を使って一生懸命何かを作っていた。
「さくら。何してるの?」
ヒナリがさくらに声をかける。
それでも集中しているのか。
動かしている手元から目を離さず返事がない。
「さくら?」
返事のないさくらに、心配になったヒナリが再度声をかける。
その声に気付いたドリトスたちも、本から目を上げてさくらを見る。
「さくら。何をしておるのかね?」
ドリトスが自身の左側に座っているさくらの頭を撫でながら問いかける。
「はにゃ〜?」という声をあげて顔を上げるさくら。
ドリトスは「何をしておるのかね?」ともう一度尋ねる。
「『編み物』だよ」
「編み物?」
「うん。『マフラー』を編んでるの」
寒くなると雪が降り積もると聞いたさくらは、趣味の編み物を始めたのだ。
ちなみにさくらの部屋には、太さの違う色とりどりの毛糸が200玉以上はある。
それでも足りないくらいだ。
マフラーだけでも毛糸は5玉、ストールやヒザ掛けを編むなら10玉は最低でも必要だからだ。
そして毛糸の太さに合わせた棒針やかぎ針、輪針も揃えている。
しかしこの世界には『毛糸』が存在しないため、『編み物』もないし『マフラー』や『毛糸の帽子』も知らないようだ。
ちなみにこの世界の防寒具は主に『動物や魔獣を解体して鞣した毛皮』で作られているそうだ。
それを聞いたさくらは元の世界のような『ふわふわモコモコ』をイメージしたが、この世界ではそんな良いものではないらしい。
確かに4人は布団に入っている羽毛や綿の柔らかさに驚いていたのだ。
「さくらは何でも出来るんじゃな」
「んー?『下手の横好き』だよ」
自分用だもん。目が揃ってなくても、とんでなければいいの〜。と笑うさくらだった。




