第149話
「ねえ。エアリィ」
「なあに?」
さくらが風の女神を呼ぶと、彼女はさくらの前に座って『ダッちゃん』を抱いている腕を撫でる。
「あのね・・・『怒気』の時、怖くて無意識にエアリィの『真名』を呼んじゃった。・・・ごめんなさい」
さくらの目から涙が零れる。
エアリィが零れる涙を拭って目尻にキスをする。
「あの時は『真名』でよかったのよ。私たちのチカラは強すぎて『個人相手』には使えないの。だから『真名』を呼んでもらう必要があったのよ」
「ずっと気にしてたのか」
頭を撫で続けている創造神は、黙ってコクンと頷くさくらに「気付いてやれなくて悪かったな」と謝る。
さくらは『真名を使って相手を『使役』する』ことは知っていた。
しかし『神が『特定の相手』にチカラを使うために真名を使う』ことは知らなかったようだ。
いや。知っていても『真名を使う』ことを躊躇っただろう。
・・・さくらは『そういう子』だ。
『あの時』はあまりの恐怖でさくらの精神もギリギリだった。
だから無意識に『真名』を呼んで救いを求めたのだろう。
そして、ずっと『真名を呼んでしまった』ことを後悔して苦しんでいたのか。
一度真名を呼ばれた風の女神は『制限の解除』が成されて自由にさくらの下へ現れるようになった。
さくらはそれを『使役』と勘違いしたのだろうか。
「なあ。『我らが愛し子』よ。どうせだから、全員の『真名』を呼んではどうだ?」
「そうすれば、『さくらを守るため』に我らは何時如何なる時でもチカラを貸せるぞ」
「でも・・・」
さくらはやはり『真名を呼ぶ』ことに躊躇う。
「お主らとはまだ『お友達じゃない』から『名前を呼び合う必要はない』ってさ」
そう言って笑う『水の女神アクアティティ』。
彼女はさくらに『真名』を呼ばれた一人だ。
理由は高熱で寝込んでいたさくらが脱水症状を起こしたことがあるからだ。
この世界に点滴はない。
そのため彼女がさくらの身体の水分管理をしていたのだ。
「・・・アクア~」
困った顔をして水の女神を『愛称』で呼ぶ。
そんなさくらのクチに小さな氷を作って入れる。
「のど乾いているでしょ?」と『さくらだけ』には優しい水の女神に「ちゅめた~い」と笑い返すさくら。
その笑顔に周りにいる神々の顔が緩む。




