第144話
最後に創造神が、現場を『俯瞰』で見せてくれた。
広範囲で物の見事に『なにもない』。
所々で見えるアスファルトの残骸で、そこがかつて『道』だったと分かる程度だ。
そこで分かった、私の住んでいた所が『ギリギリ』だった理由。
堤防と堤防に挟まれた南側の地域の方が大きな被害を受けたのは分かった。
その堤防を乗り越えて『爆発の余波を受けた』という感じだ。
ガス漏れの現場周辺も広範囲に吹き飛んでいた。
「これって、対岸やその周辺も爆風で被害を受けているんじゃない?」
「否。西風が強くて爆風は湾内で勢いを無くして対岸まで届いていない」
その分、西風の威力が増して被害が拡大したらしい。
「爆発・炎上したとはいえ『こんな状態』になるもんなの?」
どんなにガス爆発・炎上したとはいえ『何もなくなる』ってあるのだろうか?
建物の枠組みすら残っていない。
すでに『片付けられた』可能性はあるが、それにしては『なんにもない』のだ。
・・・土台も、何もかも。
あるのは『雑草が疎らに生えた大地』だけだ。
「それは『この世界の神』が『決めたこと』だ」
「・・・天罰?」
「否。間違いなく『人災』だ。ただ『あまりにも酷い状態』だから・・・『残された者たち』も『惨状の映像をみた者たち』も『精神に異常をきたす』」
「創造神は『その映像』をみせてもらったの?」
そう聞いた瞬間、イケメンの眉間にシワが寄る。
・・・そんなに『酷い映像』だったんだ。
私の拙いアタマでも想像できる。
千々にちぎれて吹き飛んだ『万』を超える遺体。
捜索に向かった自衛隊ですら『目を逸らす』だろう。
マスコミやスマホ片手に『面白半分』で現場に入った野次馬たちも心が壊れただろう。
そんな彼らが映像をネットで流して、興味本位でみた人たちの心も・・・
聞いた話だと『尾根に墜落した史上最悪な飛行機事故』の現場に入った捜索隊やマスコミの人たちの中には、あまりにも酷い現場に『心を病んだ』人が複数人いたらしい。
他国で起きた『2棟のビル崩壊事件』では、更に凄惨な現場だったために『心が壊れた』そうだ。
あの時は『ガレキに付着した小さな皮膚片』ですら回収していたとも聞いた。
『元の世界』の神さまは『そうならないよう』に『消滅』させたのだろう。
「・・・みせんぞ」
無言になった私を心配したのだろう。
軽く冗談を言うように話す創造神の顔には、まだ眉間にシワが残っている。
「イヤな映像思い出させてゴメン」
私の言葉に創造神は一瞬驚いた顔をしたがすぐに微笑み、「あれは『現実には起きなかった』ことだ」と言いながら頭を撫でてくれた。
創造神との会話中もずっと無言で私を抱きしめているアリスティアラ。
カタカタと私に抱きついて震えているアリスティアラに苦笑する。
「ねぇ。アリスティアラ」
そう呼び掛けるとビクリと身体を震わせる。
「こう考えられないかな?『私はその事故で運良く生き延びて、この世界に『引っ越してきた』んだ』って」
そう言ったらアリスティアラもだけど創造神まで一緒になって驚いていたよ。
だってこういう事故が起きたら『避難』とかするでしょ?
たくさんの人たちが亡くなったり行方不明のままの場所では『捜索作業』があるから当分・・・
そして爆発は『工場』も含まれている。
もし有害物質とか検出されていたら何十年も住めないし。
『雑草が疎らに【 しか 】生えていない』ってことは『その可能性』が高い。
それに『住むところ』をなくしたら引越しをするよね。
その『引越し先』が『この世界』だった。
・・・そう考えちゃダメかな?
「ねぇ。アリスティアラ。『生きる場所をなくした私』に『住むところ』を与えてくれたのが貴女なんだよ」
この世界へ連れて来てくれてありがとう。
そう伝えて抱きしめ返す。
私はアリスティアラの流す涙をはじめてみた。




