第138話
『セルヴァンが到着します』
ハンドくんの報告にさくらは引き戸を見る。
セルヴァンが少し頭を下げて、入り口にぶつからないように注意しながら部屋へ入ってきた。
ちなみにヒナリも頭を下げて部屋へ入ったが、ヨルクはハンドくんに頭を強制的に押さえ付けられて無理矢理下げさせられていた。
「セルぅ」
嬉しそうに両手を伸ばすさくらに気付き一瞬驚いた表情を見せたセルヴァンだったが、すぐにさくらを慎重に抱き上げる。
さくらは呼吸を詰めることなく、嬉しそうにセルヴァンの胸に顔を埋めている。
「良かったわね~。さくら。セルヴァン様のことずっと心配してたものね」
「早かったな。一週間は戻ってこれねぇって喜んでたのになー」
ヨルクの言葉にセルヴァンは睨もうと目を向けたが、その時にはすでにハンドくんが張った『結界の中』でハリセンを数発受けたようで、後頭部を押さえて座卓に突っ伏していた。
さくらからはヨルクのいる場所は背後にあたるため死角になる。
そのためヨルクの様子をさくらは知らない。
「此処の説明はハンドくんに受けたかね?」
「ええ。さくらの『部屋のひとつ』だと。この部屋にいれば、さくらの回復が早いと聞いたのですが・・・」
腕の中のさくらはセルヴァンの胸に頬をすり寄せて甘えている。
セルヴァンが最後にみたさくらは、顔色も悪く声も出せず指も動かせなかった。
それがたった数時間で『怒気にあてられる前』まで回復しているようだ。
ハンドくんがさくらが使っていた座椅子を退けて座布団を置いてくれる。
そこへさくらを抱えたまま胡座をかいて座った。
「さくらは此処で何をしていたんだ?」
「映画観て〜。歌番組観て〜。いっぱい歌った!」
「セルヴァンには今度歌を聞かせてあげようかね」
「うん!」
「そうか。楽しみにしているからな」
『今日は歌いすぎです』
『これ以上歌うならクチを塞ぎますよ』
ハンドくんの脅しに、さくらは両手でクチを塞いでプルプルと左右に首を振る。
その様子にセルヴァンは抱き寄せて頭を撫でる。
「慌てなくて大丈夫だから」
まだ自分のクチを塞いでいるさくらはコクコクと首肯する。
その仕草が可愛くて誰もが笑顔になった。




