第137話
コンッコンッとさくらが咳をする。
するとすぐに女神が現れた。
この部屋へ連れてきてくれた女神でも『エルフ族襲撃』で現れた女神でもない。
「はい。さくら。アーン」
女神に言われて素直に「あー」と口を開くさくら。
その口に丸いものを女神が入れると「ん」と言いながら口を閉じる。
そして「いちごー」とニッコリ。
「のど飴よ。まだ治ってないからムリしちゃダメですからね」
言い聞かせるような女神の言葉に「はーい」と素直に手を上げて返事をするさくら。
その様子に「絶対分かってない!」とその場にいた全員が同時に心の中でツッコミをいれた。
もちろん分かっていない。
だってさくらは自分が『ムリをしている』なんてコレっぽっちも自覚していないのだから。
歌番組が始まり曲が流れると、リモコンを左手に握りしめてご機嫌で歌い出すさくら。
リモコンは『マイク代わり』のようだ。
歌いながら楽しそうに手を振って踊っているさくら。
その楽しそうな姿をドリトスは笑顔で見守っている。
ヒナリとヨルクは画面を食い入るように観ていた。
次々と場面が変わり歌っているたくさんの『人族』。
それにも驚かされたが、曲の殆どを歌えるさくらにも驚いていた。
『さくらは童謡や唱歌、わらべ唄、民謡、CM曲やテーマ曲なども含めた『さくらの国の歌』や『他国の歌』など2,000曲以上を歌えます』
『それは『さくらの国』では当たり前なのかな?』
『さくらほどではないですが、大人でも1,000曲以上。子供でも300曲は歌えるでしょう』
楽しく歌うさくらの邪魔にならないように、後ろで筆談するドリトスとハンドくん。
彼らが書いているのはホワイトボードではない。
【 『コレ』ってなんだ? 】
ヨルクが筆記で『この世界の言語』で聞くと『紙とボールペンです』と『日本語』で返事が来た。
さくらの世界では『紙は当たり前にある』らしい。
以前見せてもらった本は『記録を残すため』に紙を使っていると思っていた。
そうではなく、落書きやメモなどにも使っているらしい。
それもこんなに真っ白な紙で・・・
ちなみにこの世界で、紙は『貴重品』だ。
それもさくらの世界でいう『わら半紙』に近く、国交などに関係する公式の場で使われるのも『中質紙』だ。
一般市民を含めて主流は羊皮紙か、『木の皮』を薄くした『経木』と呼ばれる物や、『木の繊維』を集めて薄く伸ばして乾かした物だ。
『上質紙』など見たこともない。
『そうですか?さくらの世界では『いろんな色の紙』があふれていますよ』
『折り紙や画用紙など、用途によって使い分けるため『紙の種類』も色々ありますよ』
その言葉に、流石のドリトスでも驚いたようだ。
あとでさくらが持っている紙のいくつかを見せてもらうことになった。
書き終わった紙を貰っていたヒナリとヨルクは、『今の会話』を後で辞典を借りて読むらしい。
当の本人は変わらず歌を楽しんでいる。
ハンドくんが新しいジュースを出すと、さくらは残っていたジュースを飲み干す。
CMの時にハンドくんから『紙のこと』を聞いたさくら。
「ねえねえ。『おもちゃ』は押し入れの中だよ。確か『一番上』の段」
『分かりました。探して出します』
さくらたちの会話の意味が分からないが『何か』を見せてくれるらしい。
CMに目を向けたさくら。
「ハンドくーん。あれ食べたい!」
ジタンから魔石のお金もらえた?
あれネットで買えるよね!買いたい!食べたい!
さくらが目を輝かせて話しだす。
「ネットってなんだ?」と顔を見合わすヒナリとヨルク。
『分かりました。魔石のお金はまだですが何とか手に入れましょう』
ハンドくんの言葉に「ヤッター!」と両手をあげて大喜びするさくら。
直後にCMが終わって曲が流れると、さくらは再びテレビに夢中になってリモコン片手に歌い出した。
2時間で番組が終わると、さくらは握っていたリモコンをパチパチといじって番組表を出す。
再放送のクイズ番組を見つけてそのチャンネルを選択。
ただ番組が始まるまで、まだ数分はあった。
その間にさくらは冷たいお茶を飲んでのどを潤していた。




