第136話
テレビの画面にアニメ映画が映し出されると、さくらは楽しそうに曲にあわせて身体を前後に揺らす。
そして「あ〜る〜こ〜」と歌い出した。
その様子をドリトスはにこやかに見守り、ヨルクとヒナリは口と身体の動きをハンドくんたちに塞がれていた。
ハンドくんがホワイトボードに『さくらの楽しみを邪魔するなら叩き出します』と書いてヨルクとヒナリに見せる。
激しく首を縦に振る2人と、さくらに隠れて2人を脅すハンドくんにドリトスは苦笑する。
ハンドくんに手招きをして、さくらの後ろに回ったハンドくんが持つホワイトボードに『さくらの身体は?歌っても大丈夫だったか?喉に負担は?』と書いて尋ねる。
ハンドくんがそれにルビをふってヨルクたちに見せると、『ここは『さくらの世界』の空気を清浄化させたもの。さくらの身体を癒して回復を早める』と回答した。
『もちろん無理はさせない』と書かれたので、ドリトスが『我々では『さくらの状態』が正確に分からないから任せるよ』と書くと『了解しました』と返してから、ルビをふってヨルクたちに見せる。
ハンドくんたちはドリトスたちの世界で使われている文字を読み書き出来る。
しかし『さくらの世界の言葉』を勉強している2人のために、ドリトスはあえて日本語で書いた。
こっそりヨルクの隣に『分厚い辞書(最新版)』が置かれており、ヒナリが先程の会話で分からない単語を調べだした。
そしてさくらはテレビ画面から目を離さなかったため、ヨルクたちの様子に気付いていなかった。
アニメ映画を見終えると、ヨルクは一気に疲れが出た。
話自体は不思議で面白かったが、初めて見た世界に頭がついて行かなかったのだ。
ハンドくんからは最初の方で『先代の乙女がいた時代の頃の設定』と説明は貰っていた。
それだけ『さくらの世界』について知らないことが多すぎたのだ。
色々と勉強して、次に観た時はもっと楽しみたい。
ヨルクはそう思った。
「さくら・・・それはちょっと」
女神が現れて慌てている。
「どうされたのですか?」
ヒナリが尋ねると「え!あ・・・いえ」と歯切れが悪い。
『その映画は今日観ることは出来ません』と、ハンドくんがホワイトボードに書いた言葉を読んださくらが口を尖らせる。
「今度ー?」とさくらが聞くと『今度です』とハンドくんがハッキリ止めている。
「『白黒』の『ひめゆり』だよ」
『分かりました』
ハンドくんの言葉に納得出来たのか、さくらは出されたジュースを飲む。
『次は録画した歌番組にしますか?』
「うん」
さくらは歌番組を観れば必ず歌い出す。
そのため『ジュースでノドを潤して』という、ハンドくんならではの配慮なのだろう。
その横ではハンドくんがルビを振っていないホワイトボードを見ながら、ヒナリとヨルクが辞典で漢字を調べていた。




