第13話
「ハーイ!はうあーゆー?」
超をいくつもつけて花をあしらってBGMにクラッカーを何発も鳴らしたくらいに相手をバカにした口調で、昨日の部屋へと姿を現した。
昨日のドアが現れた時点で分かっていたのだろう。
ニコニコ笑顔で出迎えてくれたドリトスとセルヴァン。
対して、たった1日で数十年は経ったかのようなレイソル、マクニカ、アストラム。
神々の抗議・・・というか『脅迫』に精神が負けたんだろう。
この世界に『精神科』ってあるんかな?
『専門に分かれていませんよ』
『治療は『治療師』が回復魔法で治しますから』
おやおや。アリスティアラ以外の神様も、チャット参加開始ですか。
じゃあ質問。
それだとオツム関係も治る?
『連中を見たとおり『『『『無理』です!』』』』
気持ちいいくらいズバリと言い切ったね~。
最後はハモったし。
『オツムが治るくらいなら、性格も簡単に治せます』
そりゃそうだ。
「そこの連中は何してるの?生きてるの?死んでるの?ゾンビ化してるの?アストラムは腰に剣を差してるから『死霊騎士』もどき?」
私の指摘にも反応が鈍い3人に苦笑するドリトス。
セルヴァンは昨日の気後れが嘘のように、私を抱え込んで肘掛けイスに移動。
今は昨日同様『膝だっこ』状態。
『頭ナデナデ』のオプション付き。
夢心地で胸のモフモフに顔をスリスリしつつ、それでも『本日の用件』は忘れていない。
エラいぞ私!
ドリトスとセルヴァンの話だと、昨日の一件で神殿に沢山の神々から抗議や苦情が殺到したらしい。
中には『魚が一匹も取れないようにしてやるぞ』という脅迫めいたものもあったらしい。
『なーに。魚を大陸の周囲の海流から、隣の海流に移してやるだけさ』
『私は、動物がオスしか生まれないようにするって言ったわ』
それには『この世界で生きている種族すべて』も、含まれている気がしますが?
『や〜ね〜。この大陸だけよ。他の大陸には影響ないわ。ここの大陸は、一度滅びに瀕した方が良いに決まってるじゃない』
まあ・・・このアリステイド大陸の人たちは、他に大陸があるって知らないから、この大陸が滅びたら『この世界の終わり』なんて思いこむわね。
『途中に『魔族の住む大陸』がありますからね。近付こうとしませんよ。もちろんその先へ行こうとも思いません』
『冒険』や『夢』とか見ない連中だな。
某アニメの主役みたいに、夢を持って大海を小舟で・・・
『無謀ですね』
『無茶な奴だな』
そりゃあマンガでアニメですから。
『雲や濃度のある霧で、太陽光を塞いで作物を実らせないようにしたら、何年で滅ぶかな~』
・・・それ、伝えたんですか?
『モチロン』
なんて返事するのかな?
『とりあえず、今日からこの国は曇天続きにしている』
・・・だから青ざめているのね。
じゃあ、私からも。『浄化対象外』!
3人には浄化がされない魔法をかけてあげた。
気が向いたら解除してあげる。
忘れても『一代限り』にしてあげたから、他の人には影響ないわ。
・・・アラアラ?
3人とも顔色がさらに悪くなった気がするけど?
うん。気のせいだよね。
神様の罰のせいだよね。
《・・・助ケテ 》
え?誰?
不意に聞こえた小さくかすかな声に、周りを見回す。
でも、ここには年上しかいない。
「どうした?」
私の様子にセルヴァンが心配そうに声をかけてきた。
ドリトスも硬い表情で周りを見回している。
《・・・助ケテ・・・・・・ボクタチヲ・・・助ケテ》
また聞こえた。
『どうしました?』
アリスティアラが私を心配している声がする。
今は、またここに飛び出さないように、他の神々と共にいる。
さっきの声より、さらに小さくかすかな声がいくつも聞こえる。
そのどれもが助けを求めてる・・・
「声、が・・・助けを求める声が・・・」
どこから?
外?外から?
ねぇ。君たちはダレ?
ドコにいるの?
私でも助けられる?
ポンッと現れたハンドくんたちが、左右10対20人。
白手袋のハンドくんたちに連れられて、大きな窓の前へ進む。
他のハンドくんたちが窓を全開にする。
柔らかな風が私の身体を包む。
『大丈夫?』
風を司る女神が風を使って私を抱きしめる。
それはなんとなく気配で分かった。
・・・でも。
ずっと感じてる。かすかな気配が近付いてくる空を見上げる。
ふわっと白く丸い『わたぼうし』が目の前に落ちてきた。
「魔物!」
「離れて!」
後ろからセルヴァンの緊張した声が聞こえた。
でも私の意識は、目の前の『わたぼうし』に集中している。
両手を差し出すと『わたぼうし』は手のひらにフワリと着地した。
「もしかして・・・『ケセラン・パサラン』?」
私の世界で『未確認生物の一つ』と呼ばれている生命体に似てる。
この世界から私の世界に迷い込んだのが『ケセラン・パサラン』だろうか?
「ねえ。さっきの声はキミたち?どうしたの?」
《ボクタチヲ、助ケテ》
《モウ、疲レタンダ》
「どうしたらいいの?」
《ボクタチヲ『魔石』ニ戻シテ》
「・・・魔石に戻したらどうなるの?」
もしかして死んじゃうの?
『いや。この魔物たちは元々『鉱石』だ。それに瘴気が蓄積したものが『魔石』。魔石がさらに瘴気を溜め込んで『魔物』となる』
『魔石が力を無くして鉱石に戻っても、またゆっくりと瘴気を溜め込んで魔石となり魔物になっていく』
創造神が説明してくれる。
・・・でも『この子たち』が『いなくなる』ことに違いはないよ。
《ボクタチハ、大丈夫》
《死ナナイ。タダ魔石ノ中デ眠ルダケ》
《コノ世界ヲ、アチコチ見テ回ッタヨ》
《ソノ時ノ事ヲ『夢』ニ見テ眠ッテルダケ》
「もう・・・いいの?」
《ウン》
《ボクタチヲ、助ケテクレル?》
『彼らはこのまま疲れを蓄積したら、自我を無くして『人を襲う魔物』となってしまいます』
《ボクタチハ、コノ世界ノ『綺麗ナモノ』ヲ一杯見タンダ》
《コノ綺麗ナ世界ヲ、ボクタチノ手デ壊シタクナイ》
彼らの言葉とともに、私の頭の中には『きれいな夕日』や『雨上がりの虹』『色とりどりの花が咲いた花畑』『森の中の木洩れ日』など、彼らが見たであろう綺麗な風景が映し出された。
「本当に綺麗だね」
・・・・・・どうしたらこの子たちの『願い』を叶えてあげられる?
『手に光を意識して。それが『浄化』だよ』
窓の外では沢山の気配を感じる。
床に胡座をかいて、手のひらに乗っているケセラン・パサランに「いいの?」と確認する。
《ウン。オ願イ》
手のひらに意識を向けると、気が流れて光が集中する。
それと同時にケセラン・パサランが少しずつ光の粒子となって、『青紫色』の魔石が手のひらに残される。
それもすぐにアイテムボックスに自動で収納される。
メニューには『魔石を貴重品ボックスに収納しました』と表示された。
次の子が手のひらにストンと入ってきた。
「楽しかった?」と聞いたら、頷くように全身を上下に揺らし《ミンナト一緒ダッタカラ》と楽しそうに返事をした。
手のひらに光を集めると、《アリガトウ。マタ会オウネ》とお礼を言って魔石に戻っていった。
どのくらい続けていただろう。
窓の外は夕日も沈み星空が見えている。
一体ずつに話をしてから魔石に戻しているので、結構な時間が掛かっている。
でも『機械的』に淡々と、仕事のように『魔石に戻す』なんて、私には出来なかった。
私の背中には何時からか、セルヴァンが背もたれのように私の身体を支えてくれている。
ドリトスも横に立って私を見守っている。
《今マデアリガトウ。ボクガ最後ダヨ》
手のひらに乗ったケセラン・パサランが、私にお礼を言って自分が最後だと教えてくれた。
《ボクタチヲ使ッテネ。ソウシタラ、マタ魔石ニナッテ、魔物ニ生マレタラ、ミンナデ『マダ見テイナイ綺麗ナモノ』ヲ一杯見ルンダ》
「うん。分かった。その時は、また綺麗な景色を私にも見せてくれる?」
《イイヨ。見セテアゲル》
「ありがとう」
最後の子が魔石に戻ったところで私は意識を手放した。