第127話
「セルヴァン様は此方にいらっしゃいますか?」
「あ!ヒナリ・・・」
セルヴァンの娘のひとり『ベロニア』が、『獣人族』用の執務室に現れたヒナリに気付いて駆け寄る。
「ベロニア。セルヴァン様は?」
「それが・・・」
ベロニアの目線を辿ると後頭部を押さえて蹲っているシルバラートがいた。
ベロニアの話だと「突然、見たことのない武器を持って現れた『たくさんの手』に殴られた」らしい。
彼のそばではセルヴァンが深呼吸を繰り返して怒気を落ち着かせようとしていた。
セルヴァンが『ハリセン攻撃』を受けた様子はない。
ハンドくんたちはシルバラートだけを攻撃したようだ。
「ヒナリ。何しに来た」
ヒナリに気付いたセルヴァンが、まだ残る怒気を含んだ声音で問う。
言外に『さくらはどうした』『さくらから離れるな』という威圧を発している。
「セルヴァン様。さくらから返事を預かって来ました。『早く帰ってきてね』とのことです」
「・・・ああ。分かった」
さくらのくれた『避雷針』はセルヴァン相手に絶大な効果があったようだ。
「それと『『彼ら』と一緒にいたら何度も怒るから帰って来られなくなるのではないか』と涙を浮かべて心配しています」
ヒナリは『彼ら』という部分でチラリと蹲るシルバラートを見た。
セルヴァンは『心配』という単語に小さな反応をみせていた。
以前は心配するあまりに『意識』を飛ばしてセルヴァンとドリトスを探し回ったこともある。
「・・・それで『さくらの様子』は?」
「今はドリトス様がついていらっしゃるため落ち着いていますが・・・」
それもセルヴァンの不在が長引けば、いつまでもつか分からない。
今でも『帰ってこないんじゃないか』と涙を浮かべて心配しているのだ。
また帰らないセルヴァンを探して王城内を彷徨ったりしたら・・・
その姿を以前は『さくら信者』が目にしたため、さくらの存在は更に『神聖化』している。
だが乙女たちに見つかりでもしたら大事だ。
彼女たちの住む『聖なる乙女の館』から王城の廊下が見えるのだ。
しかし結界に守られた最上階なら見ることは出来ないだろう。
「・・・分かった。『自室』に戻る。さくらにもそう伝えてくれ」
「はい。わかりました」
セルヴァンは『自室』にいる。
それが分かれば少しは大丈夫だろう。
さくらには屋上庭園へ向かう際に4人の部屋の位置を教えたことがある。
たとえ意識だけで歩き回ったとしても、そこならハンドくんの結界内のため乙女たちに見つかる可能性はない。
・・・以前はさくらの居場所は『金色の光』でバレていた。
結界が張られた今でも妖精たちは最上階に出入り自由だが、彼らは『屋上庭園』でさくらを待つようになった。
それは乙女たちを『さくらの敵』と認識し、屋上庭園に現れると追い出すようになったからだ。
・・・・・・植物を『愛でる』さくらと、『手折る』乙女たち。
妖精たちにとっても乙女たちは『敵』なのだ。




