表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/449

第117話




さくらを連れて屋上庭園に移動し、唯一さくらが反応を示したドリトスが揺り椅子(ロッキングチェア)に座ってさくらを膝だっこして揺れている。

さくらは最初、周りの植物に目を向けて深呼吸を繰り返していたが、今は寝息をたてて眠っていた。

やはりさくらはこの屋上庭園が『お気に入り』なんだろう。

強ばっていた身体も緩んでいた。


いつもならさくらが屋上庭園に入ると、すぐ周りに集まってくる妖精たち。

しかし、植物などの影に身を隠して騒ぐこともなかった。

今は揺り椅子(ロッキングチェア)の周りに集まって、眠るさくらを見守っている。

彼らは『さくらに何が起きているか』を知っているようだ。




「それで。これはどういう事かね?」


ドリトスがさくらの身体を軽く叩きながら、ウッドテーブルに目をやる。

そこにはハンドくんがホワイトボードを置いて待機していた。



【 さくらは今までも何回か『記憶障害』を起こしている 】


ハンドくんはホワイトボードに『この世界の言葉』で書いている。

ヨルクとヒナリはその事に驚いていたが、口に出すことはなかった。

今はさくらのことが『最優先』だからだ。



「『記憶障害』って?」


【 さくらの場合は『記憶喪失』 】


「・・・私たちのことを忘れちゃうの?」


【 今のさくらは『元の世界』の記憶を少しずつ忘れている 】


「それって!」



ヨルクが思わず大声を出して立ち上がったが、慌てて口に手をあててさくらを見る。

さくらは変わらずドリトスの腕の中で眠っている。

それを見たヨルクは、ホッと息を吐き出して座りなおす。


「それって・・・『元の世界の夢を見て泣きながら起きたり熱を出す』ってヤツと関係あるのか?」


ヨルクの言葉にヒナリは「ア!」と驚きの声をあげた。


【 ある 】

【 『過去』を『夢』としてみている 】

【 目を覚ました時に『過去』は『夢』として『忘れていく』 】

【 熱を出すのはそのせい 】

【 それでも得た『知識』は残る 】


「では『今の状態』は?」


【 記憶の整理中 】

【 今までは『寝ている間』に処理されていた 】

【 しかしここ最近は『精神的なこと』が多すぎて、処理が間に合っていない 】

【 それが『記憶障害』として現れている 】


「そいつは・・・これからも『こうなる』ことは有り得るのかね?」


ドリトスは、腕の中で眠っているさくらの頭を撫でながらハンドくんに確認する。


【 有り得る 】

【 『記憶の整理』がつかなければ、ずっとこの状態が続く 】

【 でも、それももう長くはない 】



『長くはない』

・・・それは消される『元の世界』の記憶が、『残り少ない』ということだろうか。



「その『記憶の整理』って何なんだよ」


【 記憶の『辻褄合わせ』 】

【 記憶の『すり替え』 】

【 そして、知識でも『不要』と思われるものは、『記憶の移行』をしている 】


「それはどういう?」


【 『さくらの魔石』に移している 】


「でも『不要な知識』ってどう判断してるの?」


【 持っていても『さくらが苦しむ』だけの知識 】

【 誰かの死。家族の死や知り合いの死もそう 】

【 『必要』だと分かったら、さくらに戻される 】


「・・・そうね。『飛空船事件』の恐怖は『忘れていい知識』だわ」


あの時、さくらは一晩中悲鳴をあげて目を覚ましていた。

朝方になって、ようやく『悪夢』から解放されたのだ。


【 あの時の恐怖はもう、さくらの中にはない 】

【 あのあとすぐに『削除』された 】


それを聞いたヒナリは「良かった」と呟いた。

さくらが苦しみ続けた時、ヒナリは一晩中付き添っていたのだ。

だから繰り返し思い出して、苦しませるようなことはしたくなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ