第110話
「さくら?」
「眠っているだけだ」
青白い顔で目を閉じたさくらを心配するヒナリは、チカラなくダラリと下ろされているさくらの手を握っている。
目を覚ましてからのさくらは、少し身体を動かしただけですぐに具合が悪くなる。
さくらは何も言えないし『言わない』。
それが分かっているから、ハンドくんに聞くようになった。
いまは『目眩』だったらしい。
食事量も『ひと口』と少ないから、筋力が全然戻らない。
ハンドくんがさくらの好きな『冷奴』や『湯豆腐』、具材のない『茶碗蒸し』など、ノド越しの良いものを作っては食べさせているが・・・
おやつなら少しは多めに食べている。
好きなプリンや杏仁豆腐なら、ひと皿分は食べられるようになった。
「今日は『屋上庭園』はムリかなー?」
ヨルクが座卓から身を乗り出すようにさくらを見る。
さくらの調子が良い時は、屋上庭園で過ごしている。
植物が好きなさくらが喜ぶからだ。
「今日は止めておきましょ。胸が苦しそうだったから」
屋上庭園へ移動するだけでも、さくらは体力を使う。
少しの瘴気でも吸い込めば、さくらの身体は『浄化』をしてしまう。
それは『澱』を体内に溜めることになり、さくらの体調が悪くなるだけでしかない。
『さくらと浄化との関係』をハンドくんに説明されて、誰もが言葉を失った。
だからといって、屋上庭園を含めた最上階を神が清浄化してしまうと、屋上庭園にある植物や出入りしている妖精たちに『しわ寄せ』がきてしまう。
だから少しでも調子が悪い時は、この『浄化された部屋』から出せない。
それに、屋上庭園で待っている妖精たちに心配顔をさせたくないと、さくらは無理をしようとするのだ。
「お前たちは『日本語の勉強』でもしてろ」
「うわっ!セルヴァン横暴!」
『横暴』『勉強不足』とハンドくんがホワイトボードに書くと、ヒナリとヨルクが漢字を読めなくて悩む。
逆に漢字が分かるセルヴァンとドリトスは、クックッと笑う。
「ほら。お前らは反対側行って勉強してろ」
「大声を出して、さくらを起こすんじゃないぞ」
ハンドくんを先生にした『日本語の勉強』は、さくらが目を覚ますまで続けられた。
ホワイトボードに書かれた単語を、ヒナリとヨルクが漢和辞典で漢字の読み方を調べた後、分厚い辞書で意味を調べる。
意味を調べても日本語で書かれているため、その言葉の読み方や意味も調べる事になる。
そのため、さらに時間がかかる。
でもその努力の結果、『横暴』と『勉強不足』は読めるようになった。




