第11話
「ほーんと『どうしようもない連中』だったわねー」
のほほんと、ハンドくんが淹れてくれた紅茶でのどを潤しながらため息を吐く。
「本当にごめんなさい」
アリスティアラは小さくなって謝罪する。
落ち込んでいるのは、エルハイゼン国に『降臨』しちゃったことを他の神々から注意されたからだろうけど。
「別にアリスティアラのせいじゃないでしょーが」
「でも貴女に不快な思いをさせてしまったことに違いはないでしょう?」
それはそうだけどね。
アリスティアラ以外の男神や女神たちからは「徹底的にやっていい」って言われたから、手を抜く気はないんだよね。
「今頃、神殿では『抗議殺到』に『苦情殺到』で、パンク状態になってる頃でしょ?」
神官たちも可哀想に。
『神の怒り』のすべてを国王に持っていけるんかな~?
「『神の怒り』を揉み消して神々から罰を受けるくらいなら、全部国王たちに『丸投げ』した方が良いよね〜。国王たちが罰を受けて当然なんだもん」
私は出されたクッキーを口に運びながら、テーブルに置いたタブレットを弄っている。
神々は相変わらず姿は見せてくれないけど、メールやチャットが面白いのか色々と送ってくれる。
そんな彼らが、さっきから『抗議終了』報告を、チャットで送ってきてくれる。
「あらあら。『この方』まで抗議してきたのね」
アリスティアラが、届いた最新の抗議終了メールに目を丸くする。
偉い人?凄い人?珍しい人?
「そうね。『偉くて凄くて珍しい人』って所かしら」
ああ。『創造神』か。と呟いたら「何で分かったの!」と驚かれた。
いやいや。アリスティアラ自体が、この世界では『最上位の女神』。
それも『第二位』だったよね。
その女神が『偉い』って言うんだから・・・
アワアワーって慌てるアリスティアラに、笑っているとチャットが届いた。
『正解』
・・・何ともフレンドリーな創造神様です。
そういえば「創造主って『意識』なの?それとも『神様』?」と聞いたことがある。
回答は『創造主=創造神』だそうだ。
つまり『この世界の最上位の神様』らしい。
っていうか、勝手にチャットを登録されているのは良い。
だけど「そんな簡単に神様の名前を出しちゃっていいのー?」
みんながチャットに登録してるのって真名でしょ?
真名を知られたら『使役される』って言うじゃん!
私だって、イレギュラーな存在で特殊能力を使う。
その能力を悪用されるのを避けるためと、『元の世界の自分の名前』を大事にしたいから、『この世界の名前』を付けた。
この世界の神様だって真名は大事なんじゃないのか?
と言いつつ、私はアリスティアラを名前で呼んでるが。
「貴女は私たちの名前を知っても悪用しないでしょう?」
クスクスと笑う女神様に「まあね」と答える。
今の『心地よい関係』を壊したくないからね。
『我々が世界で知られている名は字で真名ではない』
でも私のチャットに登録された名前は・・・
『真名ですが?』
『貴女は知っても人前で口にしないでしょう?』
『先ほども、あの者たちの前では『女神様』と呼んで、名前を伏せてくださいましたよね』
じゃあ口に出す必要が出たら、失礼かもしれないけど愛称で呼ばせてもらおう。
『どんな愛称で呼ばれるか楽しみにしてるわ』
・・・本当に楽しそうですね、皆さん。
「ところで、明日以降はどうする?」
私としては、いずれこの世界に召喚されるという『聖なる乙女』とは、一度挨拶しておきたいんだけど。
この世界の市井の事も知りたいし。
町に出たら屋台で買い食いするのは、『庶民の楽しみ』よね〜。
かといって、連中が用意した『私の部屋』に細工がないとは思えない。
細工がなくても、『立ち聞き』とか『監視』とかされるかもしれない。
さっきまでのやり取りで信用失墜したからね。
お互いに。
「部屋に結界を張ったらどうなる?」
アリスティアラたちと連絡取れる?
実はそれが一番心配。
結界を張っていない部屋で、いつもみたいに『私の前にお出まし』したときに、世話係とか監視者とかいたら『目撃』されて大騒ぎになるかもしれない。
トントントンとテーブルを叩く音がしたため、そちらに目を向ける。
ハンドくんたちがいて、「どうしたの?」と聞いたらお互いを指さした。
すぐに理解した。
「うん。もちろん『みんな』が、私の世話をしてくれるんだよね」と言ったら、『OKマーク』を見せてくれた。
そう。私には『立派なお世話係』がたくさんいる。
『ボディーガード』と『見張り役』、どちらに世話をしてもらいたいか。
そんなの『信頼出来るボディーガード』に決まっている。
ただ、結界内だとどうなるだろう。
私の魔法は『思った通り』になる。
普通の魔法では『自分が空に浮かぶ』だけでも、私は『空を飛ぶ』事も『宙に浮く』事も『物や人を浮かせる』事も出来る。
実際に別荘の周辺の海を『宙に浮いて』歩くことも出来た。
普通に海に潜る事も出来るが、『空気を身に纏い』濡れずに潜ることも出来る。
もちろん濡れても瞬時で乾かせるけど。
そんな私だから、きっと『思った通りの結界』が張れると思う。
でも、結界を張るときに『アリスティアラを含めた神々やハンドくんたちだけ出入り可能。連絡可能。ネット環境もOK』としたときに、何か不具合は起きないだろうか。
「問題があるとしたら、部屋の外で何かあっても分からない事でしょうか?来客・・・特に乙女が同郷ということで、話をしにくるかもしれませんし」
「あと、連中が召喚獣や聖霊や妖精を使える場合。自由に入れちゃうよね。妖精とか聖霊とかは基本気紛れだけど、仲良くなっちゃった以上『排除対象』にしたくはないな」
乙女は、ネットで購入した『元の世界』の食べ物や飲み物があるから、きっと来るだろうね。
来訪が分からないなら、マンションへ戻ってる時と変わらないよね。
でも「ちょっと『部屋』に戻る」って、乙女の前ではやりたくないんだ。
乙女にしてみれば『二度とふれることの出来ない元の世界』に、私はふれ続けることが出来る。
この世界のどこにいても、テレビを観たりネットをしたり、ネットで買い物だって出来る。
でも、乙女のスマホやタブレットは、私と違って使えなくなるそうだ。
もし、私が『逆の立場』なら「うらやましい」し「ねたましい」し「ズルい」と思う。
憎く思って八つ当たりをしてしまうだろう。
特に転移直後は、『二度と戻れない』事実を知ったら辛くて苦しくなる。
半狂乱になる。
私が『そうならなかった』のは、『ワンフロアごとの転移』だったから。
もちろん『元の環境が変わらず使える』って事も大きいが、家ごとの転移は『自分が一番安心出来る場所』があるから。
今までの乙女たちが館から一歩も出ないで引きこもっていたのも、『安心出来る場所』が館しかなかったからじゃないか?
そして『自分に優しい世界』で『悲劇の少女』に酔っていることで、きっと『自分を保っていた』のだろう。
これからこの世界へ連れてこられる『聖なる乙女』を自分に置き換えたときに、私はエルハイゼン国の庇護を受けて生きる選択を止めた。
私は『聖なる乙女』と同等の立場で、不自由のない生活が保障されている。
そういわれたけど、ただ周りに流されて、与えられた環境で生きていくのは『動物園の動物』と変わらないと思った。
違うのは『見物人がいない』だけだ。




