第109話
目を覚ますと、いつものようにヒナリが私の頭を撫でていた。
「おはよう。さくら」
目覚めの挨拶をすると、ヒナリは頬にキスをしてくれる。
『おはよう。ヒナリ』
声が出ないから口だけ動かす。
それでもヒナリは分かって微笑んでくれる。
もし通じなくても、ハンドくんがホワイトボードに書いて『通訳』してくれる。
最初に目を覚ました時に無理に喋ろうとして咳き込んだら、みんなから『超ド級』がつくほど叱られた。
ハンドくんからは、『そんなに『オブラート』なしで風邪薬を飲まされたいですか?』と脅された・・・
あれは顆粒だ。冗談じゃない!
『苦いからイヤです』と意識を送ったら、ホワイトボードにそれを書かれた挙げ句、『ではムリに声を出さないように』って怒られた。
アリスティアラから『ノドを傷めているのですから、治るまでは話さないでください』って説明された。
創造神からは『ノドだけでなく身体全体の免疫力が落ちているからな。いまはちょっとしたことが『命取り』になるぞ』と注意された。
その事をみんなも知っているのか。
ちょっとしたことでも過剰に心配されている。
「さくら。起きたか」
セルヴァンが寝室へ顔を出す。
たぶんハンドくんがホワイトボードで教えたんだろう。
『セルヴァン。おはよう』
「ああ。おはよう」
セルヴァンは私の頭を撫でて普通に挨拶を返してくれる。
それから私を静かに抱き上げる。
それだけで息が詰まって咳き込む私の背中を、ヒナリが擦ってくれる。
少しして咳が落ち着くと「大丈夫?」と聞かれて小さく頷く。
セルヴァンに抱えられてリビングに入ると「おはよう。さくら」と声をかけられた。
『おはよう。ドリトス。ヨルク』と口を動かす。
「さくら。何か食べるか?」
ヨルクに聞かれて首を左右に一往復振る。
それだけで頭がクラクラして目が回った。
膝だっこをしてくれているセルヴァンに、凭れるように寄りかかって目を閉じる。
セルヴァンが抱きしめてくれて、その温もりに安心する。
目眩が落ち着いてから目を開けるとヒナリが心配顔で私を見ていた。
それを確認してまた目を閉じると、そのままセルヴァンのモフモフと眠気に負けた。




