第102話
ヒナリの『宣言』に誰も反対をしなかった。
ヨルクなんて笑顔を浮かべている。
「ヨルク・・・反対しないの?」
「なんで?」
「『なんで』って・・・」
「いいんじゃないか?」
「・・・本当にいいの?」
セルヴァン様やドリトス様は『他種族』のため、『族長継承』には口を出さない。
しかしヨルクは『同族』で『比翼』である以上、ヒナリとは『一蓮托生』なのだ。
そのため何か言ってくると思っていただけに、ヒナリは驚きを隠せない。
ヨルクにしてみれば、『比翼』という『運命共同体』だからといって、『ヒナリが自分で決めたこと』に口を出す気は毛頭ない。
大体、ヨルクと『思いは同じ』だろう。
「・・・ヒナリは『族長を継ぐ』より、『雛を守りたい』んだろ?」
ヨルクの言葉に目を丸くするヒナリ。
気付いていないと思っていたのだろうか。
『比翼』である前にオレたちは『さくらの親』だ。
さくらを『雛』に選んだ以上、途中で投げ出すような無責任なことはしない。
「さくらはオレたちが見つけた『雛』だからな。『最期』までオレたちで守るんだろ?」
ヨルクの言葉にヒナリは頷く。
ヒナリの親で族長のエレアルには、『翼族の羽衣』を取りに帰った時にオレたちが『雛』を見つけた事は話してある。
相手は『人族』と同じだ。
他種族よりはるかに寿命が短い。
だからこそ『最期』まで守るつもりだ。
・・・たぶんエレアルは『ヒナリの選択』を嬉しさ半分、寂しさ半分で認めてくれるだろう。
「直接、エレアルに言いに行かないとな」
オレたちなら、上層の強い風に乗って4時間も掛からずに往復出来るだろう。
ヒナリはさくらを見つめていたが「セルヴァン様、ドリトス様。さくらの事をお願いしても宜しいでしょうか」と言い出した。
確かに『今から』なら昼過ぎ、遅くても夕方には戻って来れる。
「構わぬよ」
「さくらが待っているからと言って慌てるなよ。・・・さくらを悲しませるだけだ」
「はい。分かりました」
セルヴァンに釘を刺されて神妙な表情を見せるヒナリ。
「そうと決まればすぐに行くぞ」
「ヨルク?」
ヨルクは立ち上がって『伸び』をして身体をほぐす。
「サッサと『答え』を突きつけて来ようぜ。そして一秒でも早くさくらの下へ帰って来るんだろ?」とヨルクに言われてヒナリは嬉しそうに頷いた。
本当は自分一人だけ行くつもりだったから。
やっぱり私は『ヨルクに守られている』んだって深く感じ、これからは自分もみんなと一緒に『さくらを守るんだ』と強く思った。
2人はさくらの頭を撫でたり頬にキスをして、テラスから飛び出して行った。




