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九十六話『だって僕達……似てないでしょ?』

「しかし弟様……。どうやってここから逃げれば良いのですか……? グリムソウルがそう易々と逃がしてくれるとは思いません……」

 壁に背を預けて部屋の外を確認する時雨に、琥珀は不安げに尋ねた。

 時雨は黙って険しい表情をしている。

 女の子のような中性的な容姿をしている事に変わりはないが、琥珀には少し男らしく感じた。

「だろうね。まぁ、逃げられたら儲け物くらいで思ってて。出くわしてしまったら、出くわしてしまったらで僕もあいつに聞きたい事があるんだ」

「それはなんですか……?」

「……お父さんに弟が居たなんて聞いた事も無かった。でもお父さんはそれを認めてたみたいだし……。あいつの言う事が全て本当だとすれば、琥珀ちゃんと僕は兄弟って事になる。……でも僕はその線はあり得ないと思ってるんだ」

「私も信じがたいですが……。弟様はどうしてそう思うのですか?」

 変わらず曇った表情をしている琥珀に、時雨は微笑んで答える。

「だって僕達……似てないでしょ? それに僕は……兄弟だったら困る……」

「……? どういう意味ですか?」

「んーん! 何でもないよ! さぁ行こ!」

 時雨は琥珀の手を掴んで外の廊下へ駆け出した。時雨の背を追い掛けるように駆ける廊下は意外にもフローリングで、ありふれたようなデザインの壁紙からも、どこにでもある普通の住宅を想像させる。

 しかしそれが森の中にあるとすれば、やはり普通とは言えないだろう。しかしこの建物自体は小さかった。すぐに玄関へ辿り着いた。

「よしっ! 出るよ!」

 駆ける時雨かドアノブへと手を伸ばす。

 しかしその手は、宙を掴んで空振る事となった。

 何故なら扉の向かい側から、時雨の代わりに扉を開けた何者かが居たから。

「あれ? もう帰っちゃうの?」

 琥珀の察しの通り、そう言って立ちはだかった人物はグリムソウルだった。

 時雨が琥珀を背中で押して距離を開ける。

 そしてそんな様子を見て、グリムソウルは笑って言った。

「そんなに怖がらないでよ。ハイドラの旦那。まぁ、ハイドラの旦那は旦那でも、ちっちゃい方だけどね」

「お前は……何者なんだ」

「あぁ? 知っている通り、ハイドラ王の実弟……人呼んでグリムソウル……ってな?」

 グリムソウルはそう言って駆け出した。そして時雨が対応する前に、跳び膝蹴りを腹部に入れる。

 そうして踞る時雨の髪を掴んで続けた。

「逃がさないよ。もう少し俺の気まぐれに付き合ってよ」

「……おま……えは何が……目的……」

 思うように息が出来ないのか、時雨は目を泳がせて尋ねる。

「あーはいはい。何か同じような質問ばっかでさ。飽きちゃったよ。もっと面白い事を尋ねてくれない?」

 笑うグリムソウル。

 そんなグリムソウルの腹部を琥珀は力任せに押し飛ばし、よろめいた隙に、時雨を引き離して言った。

「じゃあ、あなたがスラム街で過ごしていた訳は? そんな地位の高い人間がどうして故郷を捨ててまで汚い場所で過ごし、魂の搾取なんてしていたの? それは私をハイドラ様とくっつけるのには無関係な事だよね?」

「……面白い質問だねぇ」

「だったら答えてよ」

「……何から何まで言ってやれば良いのか。ハイドラの長男と琥珀ちゃんがくっついても俺からしたらどうでも良いし、魂の搾取も単なる暇潰し。としか言いようが無いなぁ」

「言ってる事が変わってるよ」

「まぁ、要は俺なんかの発言を鵜呑みにしない方が良いよ。って事だよ」

「……」

 グリムソウルは腕を広げてフラフラと体を揺さぶる。落ち着き無い。どちらかと言えばそわそわしているのか。

右から左へと揺れるグリムソウルを、琥珀が目で追い掛けていると、唐突にどこかから大きな音が響き渡った。

その音は、振動となって床を揺らす。

「なに……?」

「あー。やっぱり来ちゃったかぁ。非禁禁忌教の奴らが。あいつら、しつこいからなぁ」

「何でこんな所に?」

「ハイドラの旦那が喧嘩でも吹っ掛けたんだと思うよ。だからここにお前ら二人を追い掛けて来たんだろう」

「……二人って、私と弟様の事?」

「それ意外に誰が居るんだよ。捕まったらどんな仕打ちを受けるんだろうなぁ。やっぱ殺されちゃうのかなぁ?」

 どこか楽しげなグリムソウルを、琥珀は不快に思う。

 そして、そんな琥珀の手首を時雨は掴んで言った。

「だったら尚更逃げるよ」

「弟様……! 大丈夫なのですか?」

「大丈夫。不意打ちを喰らっただけだから」

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