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九話『それは完全にお前の傲りだ』

 優雅。それは正しく自分の為にある言葉だと少年は思う。

 起床して自室から出ると、並んだメイド達に服を着せてもらう一日の始まり。

 朝日は今日も眩しく、朝食の包み込むような暖かい香りが漂ってくる。

 果たしてこれを優雅と言わずして何を優雅と呼ぼうか。と少年は持論にそろそろ肯定が欲しい所。

「おはようございます。今日も優雅でごさいますね……。優雅……ですね。優雅です!」

 前日と同じく大きな赤い扉の前で待つ少女は後半は誤魔化すように元気良く言った。少年はそれ以上に声を大にして叫ぶ。

「『おはようございます。今日も優雅でございますね。それに加え燃え盛る情熱が今日もひしひしと伝わって参ります』だ!!! ちゃんと覚えろ!!」

 裏声を交えて全力で説明する少年に、少女は淡々と返す。

「ですけど燃え盛る情熱って……優雅さなんて感じないんですけど……」

「お前が覚えられないって言うから曜日に関連するように作り直したんだろうが!!! 火曜日だから燃え盛る! おーけー!?」

「……お、おーけー……」

 腕を大きく広げる少年の気迫に押されて少女は引きぎみに返事をする。

 少年は鼻息を荒げながら言った。

「さぁ、ズボンを履かせて貰おうか!」







「おい、何か気の効いた話でもしてくれ」

 壁際に並ぶメイド達に囲まれ、食事をする少年は傍に置いている少女に向けて言った。

 少年の背後で、また無茶ぶりを……と少女は苦い笑みを浮かべるが、この機会に秘めている事でも言って少年を試してやろうと口を開く。

「昨日の朝食の時間。私ここで何をしたか、覚えてますか?」

「無論だ。忘れるはずも無いだろう。あんな事を仕出かしたのは後にも先にもお前だけだ」

 少年は半熟の目玉焼きにナイフを通して行く。

 切れ目からぷっくりと丸みを帯びて飛び出してくる黄身を見て、意外と庶民的な食事が好きなんだな、と脳裏の片隅で考える少女は、そのナイフを目で追いかけながら会話を続けた。

「ではなぜ、私がそのような暴挙に出たと思いますか?」

 笑顔の少女。とは打ってかわって壁際のメイド達は、各々に気難しそうな表情を浮かべていく。

 少年の手が止まった。

「そう言えば聞いて無かったな。確かに理由も無しにあんな事をするはずもない。申してみろ」

 メイドの一人が少女を強く睨む。

 若いメイドだったがこの屋敷のメイド長を務める彼女に、少女は冷たい視線を送り返した。

 蒼白させていくメイド長の表情に、少女は心の中でほくそえむ。

 メイドと少年は果たしてどんな対応をするのか、見物(みもの)だった。

「私虐められているんです。先輩方に」

「ほぉ。なるほどな」

 メイド長だけで無く、メイド達も遅れて顔を青くしていく。

 その中で少年は立ち上がると振り返り、少女を睨んで言った。

「それだけか? ……だとすれば暴れた理由にはならんな。仕事の出来ないお前が然るべき処置を受けた。としか言いようが無い。それは主である俺に迷惑を掛ける理由には一切ならない事を先に教えておいてやろう。不満か?」

 やっぱりそんなとこか。と別に期待していた訳でも無いが失望する少女。周囲で安堵しているメイド達が少し腹立たしかった。

 そうして少年からの不満か? と言う質問に少女は答えかねていると、見切りをつけた少年は鼻で笑い、再び席についた。

「まぁ、お前の気持ちが分からんでもないが悔しければメイド長の仕事ぶりを越えて見せろ。としか俺は言えんな。それは完全にお前の傲りだ」

 言葉を失い続ける少女。

 別に気にしてる訳でも無いのに、返す言葉を見つけられない自分が一番腹立たしかった。

 これではショックを受けているように見られる。それは嫌だと、無理矢理言葉を絞り出す。

「そう……ですね……」

 言って後悔する。

 暗いトーンで発せられた声は、カウンターを食らって満身創痍で気力を失ってしまったそれに等しいでは無いかと自分で思う。

 困惑する少女。ここで自分は、少年だけは自分の味方をしてくれるのでは無いかと淡い期待を抱いていた事に気付く。でないと、この晴れない気持ちは説明はつかなかった。

 頭は自然と俯いてしまう。

「だが……」

 そこで少年は飲み物を口に運び、乾いた口内を潤すと、力強くコップを置いて続けた。

「それはメイド長の職務怠慢でもある。メイド同士の関係を円満に動かすのも(おさ)としての務め。一メイドから俺の耳にこのような話が直接転がってくると言う事は、メイド長の管理が行き届いていない表れに他ならない。荷が重いと感じれれば長の地位を辞退してくれても構わんぞ」

「申し訳ございません!」

 深々と頭を下げるメイド長を少年はチラリと横目で見る。

「分かればよろし。メイド長、俺の期待を裏切るな。……こうして重い言葉に負けぬ心を持つのも上に立つ者の心得」

 少年はそこで食事を再開すると、背後の少女に向けて続けた。

「さてお前、いつまで床を眺めている。後で、俺の部屋に来るように。分かったな?」

「……はい」

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