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外伝『アクア領の歴史』

 ボート。そう表現してしまっても間違いではないほどの小型の船が、エンジンを鳴らして湖を走る。

「アクア領の王女様さぁ。故郷を捨てて出て行ってしまったんだって。何故だと思う?」

 船頭に腰掛けるグリムソウルが、跳ねる魚を目で追いながら尋ねた。

 アクア領の王族などに微塵も興味が無かったハイドラがそれに答えられるはずもなく、掛かる水飛沫を鬱陶しそうにしながら素っ気なく返した。

「知らん」

「まぁ、そうだよね。でもアクア領の王族が水魔法の使い手なのは有名な話。それも世界で右に出る者は居ないほど。でもそれほどの力を維持するのは難しいんだよね」

「意味が分からん」

「つーまーりー遺伝魔法ってのは魔人に与えられた魔法だろう? だが人間が交配を重ね、代を経ていくにつれて遺伝魔法は混ざり合いやがて形を失っていく。そうなると使い物にならなくなって、結果的に今の人間のほとんどは遺伝魔法を失った」

「それで?」

「だったら遺伝魔法が近しい者同士で子孫を残せば良い。そうすれば後天的に覚えられる魔法ではなく、先天的に強大な魔法がいつまでも引き継げるって訳」

「話が見えてこないな」

 ハイドラはくだらなさそうに答える。

 対してグリムソウルは、口角の片方だけを吊り上げて言った。

「親近相姦」

 場が凍り付く。ハイドラは硬直し、真剣に話を聞いていたロゼに至っては驚愕を越えて呆然としている。ずっと俯いていた琥珀も、思わず顔を上げた。

 そこでグリムソウルは、笑って続けた。

「はっはっはっ。なんて、王族がしていたら気持ち悪いし、民も良く思わないよね。今のは冗談冗談。王女様が逃げ出した本当の理由は、婚約者が既に決まっていると言う事。アクア領では定期的に水魔法に関する大会が開かれる。そこで優勝した者が、婚約者に選ばれるんだ。実に可愛らしい理由だろう?」

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