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八十四話『逃げたければ、どうぞご自由に』

「こんな所に居た……。探すのに苦労したよ。まったく」

 そう言ってエルに近付いて行くのは、グリムソウルだった。

 そうしてエルの頭を撫でるグリムソウルに、エルはそっぽ向いて返す。

「ボクは別に探して欲しくなんか無かった」

「まぁ、そう言うなよ。俺のお陰で、無事に逃げられるんだ。感謝して欲しいもんだねぇ……。なぁ?――」

グリムソウルはそこで腰に手を当て、体をくねらせるようにしてハイドラへ振り向く。

「――ハイドラの旦那ァ……」

「何が言いたい……?」

「船……必要なんでしょ? 一艇、空いてるぜ?」

 ハイドラはまたもやそこで黙り込んでしまう。

 考えている時間は、もう残されていなかった。

 グリムソウルは親指で湖の方向を指差すと、そのままエルを連れて船へと向かっていく。

 そうしてすぐに意を決したハイドラが湖の方へ歩き出すも、すぐさま琥珀がその手首を掴んで止めてしまう。

「どこに行くのですか。ハイドラ様」

「どこって……船だよ」

「ありませんよ。ロゼがそう言ましたよね?」

「何を言っている……? さっきの会話を聞いて無かったのか? グリムソウルの奴が押さえて置いた船があるのだろう」

 琥珀はそこでハイドラの手首を投げるように払うと、強くきつく冷たく良い放った。

「そうですか。でも私はあいつに助けられるくらいなら、ここで捕まる道を選びます」

「何を言っているんだ? もう時間がない。走るぞ!」

「ご勝手にどうぞ」

「いい加減にしないと怒るぞ?」

「……くず」

 そこでハイドラは声を荒げて返す。

「貴様……! 誰に向かって口を利いている!!」

 もう保安機関がすぐにまで迫っていた。

 ロゼも慌てて間に入って仲介する。

「ほんとに時間が無いわ! 話なら船の上でも遅くないわよ!」

「私は……行きませんよ。逃げたければ、どうぞご自由に」

「そうか。俺の指示に従えないか。ならば俺にも考えがある」

 ハイドラはそこで琥珀を指差して続けた。

「契約に基づき、命令する。汝よ、我の後に続いて走れ」

 そしてすぐにハイドラはロゼの手を引っ張って走る。

 後に続く琥珀の表情が鬼のような形相をしていたのは言うまでも無かった。








「あぁ、やっぱりねぇ。ハイドラの旦那ならそうやって琥珀ちゃんを連れて来ると思ったよ」

「御託は良い。さっさと船を出せ」

「はいはい……っと」

 そうして船は船乗り場から離れていく。

 保安機関の人間が並んでこちらを睨んでいる様子から、わざわざ追い掛けるつもりはないようだった。

 ひとまず安堵の溜め息を付くハイドラ。琥珀はずっとうつ向いてる。

 そうして一安心した所で、グリムソウルは楽しげに言った。

「なにやら雰囲気がよろしく無いようで。まぁなんだ、今は休戦といこうぜ? ……そんな訳だから陸に着くまでの、退屈しのぎと言っちゃなんだが、アクア領に関する歴史。あ、そうそう俺そう言うの好きなんだけどね。君達も興味ない?」

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