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八十二話『雨芽 エル』

「エル。ボクの名前は雨芽エルだよ」

 エルと名乗った少女は、ロゼに手を差し出す。

 ロゼがその手を取り立ち上がると、エルは動揺する男性に言った。

「最初は紳士的な人かなって思ったけど、ひどいよ。か弱い女の子に寄って集って」

「ひどい……だと? 我々は住人の安全の為に仕事をしているのだ。邪魔をするなら、お前も同罪になるぞ」

「……この人が何か悪い事をしたの?」

「そいつは犯罪を冒した極悪人の仲間だ」

 そこでエルはロゼへ振り向く。そしてロゼの顔色を伺ってすぐに視線を男性に戻して言った。

「例えそうでも、こんなやり方は良くないよ」

「……お前、そいつの仲間だな?」

「ち、違うよ! ただボクは――」

 エルは両手を広げて弁明するが、それも虚しく、男性の大声に掻き消されてしまう。

「――ええい! 二人とも捕らえろ!」

 そしてまるでそれが合図だったかのように、一斉に動き出す。

 エルは構えを取って言った。

「ごめんね。ここで捕まる訳にはいかないんだ。この契約書の持ち主に会うまでは……」







「琥珀! 急げ! なにやら騒がしいぞ!」

「わ、私だって全力で走っていますよ!」

 魔宝石や魔法防壁発生装置、そして万能薬を詰め入れた大きなリュックサックをハイドラが背負い、そのハイドラを琥珀が背負っていた。

 流石の琥珀も、それだけの重量を背負って走るには無理があるのか、息を切らしている。

 そして端から見れば、なんとも珍妙な格好に写るだろう。が、周囲の人々はそんなハイドラ達には目もくれず、ハイドラ達が向かっている方向とは真逆の方へ逃げ惑っていた。

「ついたぞ! 船乗り場だ!」

 ハイドラと琥珀が向かっている先……それは船乗り場だった。

 先にロゼを向かわせて居ただけに、そこで騒ぎが起きているとなると不安にならざるをえない。

 そして降ろされたハイドラが、船乗り場で見たものは……

「なんだこれは……」

 小柄な少女が、恐らくこの街の保安機関であろう人々を、全滅させている光景だった。

 奥ではロゼが、膝を抱えて座り込んでいる。

「ロゼ!」

 思わず腕を伸ばして叫ぶハイドラ。

 そしてその言葉に反応したのは、気を失う保安機関の一人に靴底を押し付ける小柄な少女だった。

 首だけを回してハイドラを確認するや否や、少女は口角を吊り上げて言った。

「……見つけた」


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