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七十ニ話『スコラミーレス』


 また地獄のような地下の廊下を通り抜け、地上へ上がってすぐの事だった。

 既にハイドラの屋敷は……無数の武装した人間に包囲されていた。

「ロゼ! 急いでください!」

「俺の屋敷はファフニールアルファ領の端にある! 国境さえ越えれば奴らは追ってこれないだろう!」

「はぁはぁ……はい……!」

 ハイドラの屋敷の裏、手入れがまったくされていない森の中を三人は駆け抜けて行く。

「目前に見張りが居ます! ハイドラ様! 迂回しますか!?」

「……いや、ここは強行突破する!」

 三人はそのままひたすらに進んでいく。

 そこで二人の見張りが、接近する三人に気が付いた。

 慌てて腰にかけている無線機に手に取り耳に当てる人物だったが、一言も話す事なくハイドラによって首の中心を素手で貫かれてしまう。

 続いて拳銃を取り出しハイドラに標準を合わせるもう一人の人物を、袋を抱える琥珀が片手で後頭部を掴んで地面に叩き付け、そのまま小さなナイフで背中を突き刺した。

「行くぞ!」

 ハイドラの掛け声と共に再び駆け出す三人だったが、不意に背後の方角から強烈な光が差し込み、三人を驚かせる。

「何事だ!?」

「前です! ハイドラ様!」

 走りながらも背後へ視線を奪われるハイドラだったが、琥珀の忠告により再び前へ向き直すと、あろう事か目前で大きな爆発が起きた。

 その衝撃で地面を転がってしまう三人。そしてその三人を追い抜くように小さな火球が背後から放たれたかと思えば、それがまた近くの木々に接触し先程のような大爆発を起こした。

「……何故、これほど強力な魔法が……」

「あなた様……あれは……」

 ロゼが恐る恐る通ってきた方向を指差す。

 そしてそこに居た者は、箒に跨がって木々を避けるように飛行し、杖を三人に向ける黒いコート姿の人物だった。

 それもそんな人物が無数に居る。

「スコラミーレスだと……! 奴らそんな者を雇って……」

「それは何ですか?」

「説明は後だ! あれに勝つのは無理だ。勝てても後が怖い。逃げるぞ!」

 ハイドラがそう言って立ち上がった直後だった。

 コート姿の人物が三名、まるで瞬間移動したかのように、既にハイドラを至近距離で囲んでいた。事実それは瞬間移動以外の何物でも無く、そうして杖を向けられるハイドラは咄嗟に叫んだ。

「お前らは逃げろ!! 狙いは俺だ!!」

 杖の先が淡く輝き、唐突にハイドラが吹き飛ばされて行く。

 何が起きたのか、琥珀もロゼも理解が及ばなかった。

 気が付けばハイドラがそのまま木に叩き付けられ、地面に横たわっている。

 その中でただ分かるのは、それが高位の魔法である光魔法によって引き起こされたと言う事だった。

「逃……げますよ」

 琥珀がロゼの手首を掴んで駆け出す。が、ロゼはその場で踏み止まってしまう。琥珀の手を払い除け、強い口調で言った。

「あなたは主を見殺しにすると言うの……?!」

 しかし琥珀は再び手首を掴み直すと、ロゼに劣らず強気で答える。

「その主が逃げろと命じたんです。聞いてなかったのですか!」

「それは……聞いた……けど」

「考えてる時間なんて無いのです!」

 琥珀は無理矢理にロゼを引っ張って行く。

 そうこうしている内にハイドラは、コート姿の集団で見えないほどに囲われていた。

 しかしその中の一人が不意に琥珀とロゼに振り向いたかと思えば、低空飛行するように急接近してくる。

 身構える琥珀。

 しかし既にその人物は琥珀の背後から、琥珀の後頭部を掴んでいた。

 遅れて振り向くがもう遅い。

 目元だけを仮面で隠したその人物は、にやりと笑みを浮かべた。

「上位光魔法『ラド』」

 琥珀の胸に突き付けられる杖の先が淡く輝きを放つ。

「……!」

 思わず目を閉じてしまう琥珀。

 そうして覚悟を決めるが、不思議な事に痛みは一向に襲って来なかった。

「……?」

 恐る恐る目を開ける。

 すると目前には、コートの人物の首を絞め付けるハイドラが琥珀を庇うように立っていた。

 恐らくその体で光魔法を受け止めたのだろう。苦しげな表情を浮かべている。

「ハイドラ様!」

「早くロゼを連れて逃げろ。……国境を越えてアクア領に入ってすぐの場所に、旅人の為の宿がある。そこへ行け。俺も遅れて向かう」

「わ、分かりました!」

 ハイドラへ背を向け、ロゼの手を引き琥珀は駆け出した。

 それを追い掛けようとコートの人物達が一斉に動き出すが、そこへハイドラが首を絞めていた人物を投げ飛ばして牽制する。

 そして片腕を広げて言った。

「ここを通りたくば、俺を越えて行くが良い。……お前達の実力は認めてやるがハイドラと戦うに置いて、既に血が流れている場所を選んだのは失敗だったな」

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