断章『楼壁『セヘルジタール』』
会合。貴族による集いはそう表現するのが適切だった。
時は大きく遡り、ここではシャルルループ家による年長者会議……いわゆる元老院による会合が行われていた。
議題は当然、シャルルループ家当主が殺害された件。皆、沈んだ表情で卓を囲んでいる。
その中で、立派な純白の髭を撫でる老人が、一際目立つ空席……本来ならば当主が座っているはずの装飾品で彩られた椅子を眺めて言った。
「さて犯人だが、既に目星は付いている。……信じたくはないが、どうやらあのハイドラが絡んでいるらしい」
一気に周囲がざわめく。
そこで元老院の中では比較的若手の男性が手を上げて発言した。
「私はこのまま引き下がれない。自体を無かった事にするには、あまりにも被害が大きすぎる」
当然、すぐに反論はどこかから返ってくる。
「しかしあのハイドラだぞ? 敵に回した時の被害の方が恐ろしいと思わんかね?」
そして各々に、思っている事を吐き出していく元老院。
「犯人は、ハイドラ家の息子だ。人質に取れば良いんじゃないか?」
「いや、実行犯は召し使いだと聞いている。しらばっくれられたら、それまでだ。それどころか、それが原因でこちらが不利になるかも知れない」
「しかし何もしないと言うのは、我々の面子に関わる」
「まぁひとまずは……当主の配下の者が追っ手を放ったそうだ。その反応を見るしかない」
「勝手な事を……してくれたものだ。そいつには処罰を下さんとな」
元老院の一人がそう言った時だった。
不意に、部屋の大きな扉がゆっくりと開かれていく。
皆の視線を集め、その中で姿を見せたのは、髪の白い男性だった。
「何者だ!?」
見知らぬ人物の登場に、一人の老人が卓を叩いて尋ねる。
そうして白い男性は大きく一礼すると、腕を広げて言った。
「お初に御目にかかります……シャルルループの皆様。俺の名は……魂の契約者グリムソウル。以後、お見知りおきを……」
「貴様……! どこから入った!?」
「どこからって……そりゃ玄関から……堂々と?」
「誰が通したんだ、こやつを! 門番を呼べ!」
「多分来ないと思うなぁ」
グリムソウルと名乗った男性は、自前の白い髪を弄りながら言った。
そこで白い髭の老人が尋ねる。
「なぜ、そう思う?」
「俺が殺したから。あ、そうそう。ちなみに他の部屋に居た者も女、子供もみんな殺して置いたよ」
老人は瞼を強く閉じて悲痛の表情を浮かべると、懐から杖を取り出し、グリムソウルへと向けた。
「その男を……殺せ」
そうして皆が一斉に、杖を向けた。
「怖い怖い。それで……俺どうされるの?」
「雷魔法『ボルテージ』」
グリムソウルの言葉を無視するように一斉に詠唱される魔法。
それぞれの杖の先から一筋の雷が迸り、囲うようにグリムソウルを襲った。
しかしグリムソウルは不適に笑うと、
「楼壁『セヘルジタール』」
床を力強く叩き付け、遺伝魔法の名を口にする。
すると床から聳え立つように、半透明の壁が瞬時に出現し、グリムソウルを完全に隔ててると同時に、雷魔法からその身を堅牢な壁で守った。
そしてその壁を一番良く知る老人が、呆然として尋ねる。
「お主……。その魔法をどこで……」
グリムソウルは目前の半透明の壁を指差しながら言った。
「あぁ? これ? 拾ったんだぁ。良いでしょ? んじゃあ、次は俺の番……かな。最高位風魔法『テンポラーレトルメンタ』」
グリムソウルを守る壁が溶けるように消え、まるで指揮者のように腕を振るうグリムソウルの手の先から、肉眼で捉える事が出来るほどに凝縮された空気の刃が飛び交う。
そしてそれは部屋の至る箇所を切り裂くと、次々に人を逃げ惑う間も与えず殺めていく。
そうして赤く染まり静まり返った会合の場で、グリムソウルの笑い声が響き渡った。




