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六十七話『甘いのです』

「私の差し上げた魔法防壁が大いに役立ったようで……。それは何よりだ、ミスターハイドラァ」

 そう言って残骸の上を歩くのは、若い青年ロジックベンセンだった。

 小さく手を叩いて、音も立てず拍手を送っている。

 ハイドラは魔法防壁を解除して尋ねた。

「お前がどうしてここに居る? それに……お前に貰った魔法防壁とはどういう意味だ? お前は一体、何者なんだ……?」

「察しが悪いな。……そう! 私は、横の可愛いお嬢さんに殺された……シャルルループ……だ」

 シャルルループと名乗ったロジックベンセンは腕を広げて、大きな声で答える。

 ハイドラは片手で片耳を押さえながら、再度尋ねた。

「ではどうしてお前がロジックベンセンとやらに成り済まして居るのか、聞かせて貰おうか?」

「ノンノンノン! それはぜひ! 横のお嬢さんに聞きたまえ」

 ハイドラが琥珀へ視線を向ける。

 琥珀は、静かな声で答えた。

「あの人の仕業なんでしょ……?」

 シャルルループは歯を見せて笑顔を浮かべる。

 琥珀は一歩前へ進んで続けた。

「あの白い髪の男の名は、グリムソウル。魂を操る魔法を持ち、こう自称した。『魂の契約者』と」

「魂の契約者……?」

 ハイドラが眉間にシワを寄せて復唱する。

 そこへシャルルループが腕を広げ、天を見つめながらハイドラの疑問に答えた。

「そう! 私は、横のお嬢さんによって魂を奪われ! そしてグリムソウルに預けられた! そうして……グリムソウルの力によって私は、ロジックベンセンの体を乗っ取ったんだ……!」

「琥珀が……?」

 ハイドラが琥珀へ怪訝そうな表情をした顔を向ける。

 対して琥珀はハイドラから少し身を引いて言った。

「ごめんなさいハイドラ様。私は……ハイドラ様よりも先にグリムソウルと契約を交わしてしまっているんです……。だからハイドラ様の命令に逆らえてしまったのも、ハイドラ様が力を解放しても私が助かったのも……そのおかげ……。そして私のこの強さも……契約によるもの……」

 ハイドラに衝撃が走る。

 嘘であってくれと現実逃避する思いと、それを聞いて自分はどうするべきかと現実的に考えるハイドラ。

 しかしここで悩んでいても仕方がなかった。

「何を……馬鹿な……。グリムソウルとやらの目的は……なんなんだ……?」

 気力を失うように問うハイドラに答えたのは、シャルルループだった。

「さぁ? なんだろうね? ただ分かる事は、ロジックベンセン……もとい私の誘いに乗って派閥に加わった君が……早速領主を殺した。……そうなれば君を迎え入れた派閥は、きっと立場を失うだろうね? するとどうなると思う?」

「知るか……!」

「なんだかんだこの街は上手く回っていた。領主ファフニールアルファは優秀な政治家だったんだ。この街はそれを失い、二つある派閥の内の一つが機能を失い半壊。……ここで質問だが、厄介者で通っているハイドラを迎え入れた理由はなんだと思う?」

 ハイドラは何も答えなかった。ある程度、察しはついていたが黙っていた。

 そこへそんな様子のハイドラを鼻で笑ってシャルルループは続けた。

「ファフニールアルファ領からそう遠くない場所に、ハイドラ領が存在する。君はそこの領主の息子なのだろう? それを利用出来たのらば、派閥としてはさぞ美味しいだろうなぁ。だが結果として、そのハイドラに利用される事になる」

「どういう意味だ……?」

「もう分かっているだろう? ハイドラ家は厄介者であると同時に、暴君の名でも通っている。その強大な力で人々を支配下に置いては、次々に領地を広げている。ここが占領されるのも……そう、時間の問題だ。何故なら、もうこの街を守れる者が居ないからだ。この街はもう終わりなのだよ。もっとも……私がそう仕向けたのだけどね。……そして」

 シャルルループはそこでガッツボーズを取りながら続けた。

「グリムソウルの言われるがままに働いたんだ。ここからは好きにさせて貰う」

 そうして意気揚々と腕を回すシャルルループに、琥珀は首を傾げて尋ねる。

「どういう意味ですか?」

 笑うシャルルループ。

「ハッハッハッ。どういう意味もなにも、そのままの意味で受け取ってくれたまえ。……つまりは、我が一族を根絶やしにしたグリムソウルに……復讐をするのだ」

「……甘いのです」

 間髪容れずに返ってきた言葉に、シャルルループは思わず苦笑いを浮かべる。

「甘い……? ……あぁ、そうか。私も淡々と言い過ぎたのかな? 一言で復讐と言ってしまっては、軽い発言に聞こえてしまうものか……。もしくは復讐だけでは、仕返しとしては不十分と言う意味かな? だが案ずるな、お嬢さん。私のこの思いは、そんな軽いものではない……とだけ言っておこう!」

 シャルルループは親指を立てて爽やかに笑って見せた。

 そこで琥珀は小馬鹿にするように小さく笑う。そしてすぐに真剣な表情になって答えた。

「あ、失礼しました。……えーと……甘いのは、あなたの考えですよ? シャルルループさん」

「なに……?」

 さすがに馬鹿にされるようにそう言われては、笑顔を無くしてしまうシャルルループ。そうして琥珀を睨み付ける。

 対して琥珀は、冷静に言い放った。

「シャルルループさんを殺してあげてください。ハイドラ様」

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