六十五話『大事な話だ。心して聞いてくれ』
あれからハイドラと琥珀は抱き合ったまま、眠ってしまっていた。
ハイドラは不意にハッとしたように起き上がると、目の回りを赤くして眠る琥珀の腹部を無意識に優しく撫でる。
「……」
「ハイドラ……様」
その直後、琥珀もすぐに目を覚ました。
そしてハイドラの手の甲に手を重ね、微笑む。
ハイドラなりに気遣ってくれているのが直に伝わり、琥珀は嬉しかった。
「ハイドラ様は……変わりましたね」
「確かに変わったな……。お前が変えたんだ」
「そうなの……でしょうか……? ……こんな私の……何が良いのですか?」
「性根だ。どれほど取り繕うが、人の本質は変わらない。俺はお前のそこが好きだ」
ハイドラはそこで手を握りしめて続けた。
「だから俺は……許さない。そんなお前を傷付けたあの男が……。琥珀、本当にあいつは友人なのか?」
「あの人は……スラム街でお世話になった人です。……それだけです」
「そうか……その程度の関係か。これでまた、陥れる対象が増えたな……」
ハイドラは鋭く前を睨む。
琥珀はその目を見て、ハイドラから固い悪い決意を感じた。
嬉しい反面、その事に今は触れたくない琥珀は、話題を変えるように言う。
「あー……でも私は変わってませんよ。やっぱりメイド業も全然ダメですし」
ハイドラは笑って答える。
「そうだな。でもメイド業をする必要も無くなった」
「……どうしてですか?」
「大事な話だ。心して聞いてくれ」
琥珀は上半身を起こして大きく頷く。ハイドラも合わせるように頷いて続けた。
「メイド達は……全滅した。俺が殺したんだ。そうしないと俺が死んでいたからだ」
琥珀は口元を手で押さえて、小さく何度も相槌を打つ。
「そしてそのメイド達の中に……琥珀も含んでいた。それが偶然的に助かっただけなんだ……。やっぱり俺は最低な男だろう?」
「でも……そうしないとハイドラ様が死んでいたのですよね……?」
「そうだ……間違い無くな」
聞いていて察しはついていたが、ハイドラとはそう言う男だった。
しかし今は何故か、ハイドラを肯定しても良いかと思えた。
「でしたら……私は……仕方無いと思いますよ」
「ふっ……そうか。お前も優しくなったな。だったら聞かせてくれ。俺はお前が好きだと何度も言っているが……お前は俺をどう思ってるんだ?」
琥珀はそこで目だけを動かして視線を逸らす。
そこへハイドラは琥珀の頬に手を添えると、真剣な眼差しを向けて再度尋ねた。
「教えてくれ」
そこで琥珀は観念したように答えた。
「はぁ……嫌いだったら、こうしてませんよ。私はハイドラ様の事が――」
その時だった。
琥珀のことばを遮るように、けたたましい音がなる。
それは耳をつんざくサイレンだった。
「――何事だ!?」
ハイドラが慌てて部屋の外へ向かう。
そして扉を開けた先で見たものは、ハイドラ達の居る部屋を包囲する武装した人間の集団だった。
こんな狭い場所で大層な事を……と思うハイドラだったが、自分がした行為を考えれば不思議でも何でもない。
そしてその凶悪犯であるハイドラへ、皆が一斉に拳銃を向けて牽制すると、サイレンの轟音にも負けない拡声器を通した声が響き渡った。
「ハイドラ! お前には逮捕状が出ている! 無駄な抵抗はせず、大人しくお縄につきなさい!」
琥珀が慌ててハイドラに駆け寄る。
「ハイドラ様! これは一体何ですか!」
「……ファフニールアルファを殺した。俺は罪人だ」
「そんな……!」
この地を治める領主を殺したとなれば、まず死刑は免れないだろう。間違いなくそれほどまでには大罪だ。となれば、琥珀が次に取る行動は決まっている。
「私、戦います。ハイドラ様は奥で隠れて――」
意を決してそう言った時だった。
ハイドラが琥珀の胸を強く押して部屋に押し込めると、扉を閉めながら言った。
「――お前は身を隠していてくれ」
琥珀は咄嗟に手を伸ばす。
しかしバランスを崩して体が傾いていく。
そうして扉が締め切られると同時に、何重にもなった銃声が鳴り響いた。
「ハイドラ様!!」




