六十二話『だったらすんなり終わらせられたじゃない……』
「私は……何を……」
時は遡り、白い髪の男性に連れられた宿の部屋で、琥珀はまるで目を覚ましたかのような感覚に襲われる。
今までも確かに意識はあった。ここに来るまでの経緯もはっきりと覚えている。
しかしそこに至るまで、琥珀の意思はまるで無かった。
「何を……したのですか」
すぐ横には男性が立っていた。どういう訳か男性の腕に、琥珀が腕を回している。
自分が自ずとそうした記憶があるだけに、気持ちが悪かった。
すぐに男性と距離を取る琥珀だったが、手首を男性に掴まれてしまい、すぐに引き寄せられてしまう。
「やだなぁ。俺は何もしてないのに」
「離して!」
琥珀は腕を振って抗う。
男性は楽しそうに言った。
「嫌よ嫌よも好きの内ってね」
「好きじゃない! 離して!」
そう言って暴れる琥珀を、男性は無理矢理抱きしめると、耳元で囁いた。
「昔さ。琥珀ちゃん、俺の事好きだったでしょ?」
黙り込む琥珀の抵抗が弱まる。
男性はより強く琥珀を抱いて続けた。
「すぐに分かったよ。俺がスラム街で生き残る術を教えてあげるだけで、すごく楽しそうにしてたもんね。友達の男の子にはすごく素っ気なかったのにさ」
「べ……別に普通だった」
「そうかなぁ? 俺にはそう見えなかったなぁ。でも俺がスラム街で絶対にしてはいけないと教えた言い付け、きちんと守ってたんだねぇ」
「……そんな大それた事じゃない。どんなに優しい人間に言い寄られても、世話を買って出る貴族に誘惑されても、絶対に股は開くな。あなたが念を押して忠告してくれたのはそれだけでしょ。それに私は共感しただけ」
「そうそう。それを教えてあげる前は、誰にでも付いて行きそうな子だったからね。いやぁ、人懐っこくて可愛かったんだけど、心配だったよ」
「……もう良いでしょ。離してよ」
琥珀が男性の胸を両手で押して、全力で距離を取ろうとする。
すると男性は、すぐ近くのベッドに琥珀を投げ捨てると、そのままベルトに手を伸ばし、カチャカチャと音を立てて外し出した。
「何を……してるの」
「何って? 分かるでしょ? 琥珀ちゃんはさ、俺の物なんだから」
男性はそうして衣服を脱ぎ、下着姿になると、次に琥珀のメイド服に手を伸ばした。
「やめて! 意味が分からない!」
「うるせぇんだよ!」
男性は暴れる琥珀の頬を、ひっぱたく。
あまりにも突然な事に、頬を押さえて黙り込んでしまう琥珀。
そうしている内に男性は琥珀のメイド服の裾を捲り上げた。
「ガーターベルトか。ハイドラの趣味か? 気持ち悪いマセガキだなぁ」
そのまま男性は寝そべる琥珀の下着に手を伸ばした。
「どうして?」
琥珀は男性の手を静止させるように手を重ねると、涙を浮かべて尋ねる。
対して男性は、睨むように見つめてくる琥珀へ微笑むと、再び頬をひっぱたいた。
「黙ってろよ」
「……せめてさっきみたいに意思を無くしてよ。だったらすんなり終わらせられたじゃない……」
まるで全てを諦めたかのように、琥珀の体が力が抜ける。
男性は琥珀の下着を破るように乱暴に脱がすと、楽しげに言った。
「俺は人形を抱く趣味は無いんでね」




