六十一話『あああううううぅっ……!』
男性に言われるがまま、近くの宿を訪れたハイドラ。そこの受付には人一人はおらず、部屋の写真がいくつも表示された電子掲示板だけが、その存在感を放っていた。ハイドラは宿では初めて見る設備に驚きながらも、その横を通り抜けて行く。
そうしてピンク一色の廊下を足早に駆け抜けながらも、鍵に書いてある数字と同じ部屋を探した。
「この部屋か……か?」
そうして何とか見つけた部屋のドアノブに鍵を差し込むと、そこで大きく息を吸う。
そして意を決したように全ての息を吐き切ると、勢い良くドアを開けた。
「琥珀!」
返事はない。そのまま奥へ進んで行くと、そこには乱れたベッドが一つ中央に配置されていた。
シーツに触れるとまだ温かさが残っている。そして……少量の血液が付着していた。
「琥珀……」
嫌な想像が膨らんでいく。
そして同時に、今頃、腹を抱えて笑っているであろう男性の高笑いが脳内で何度も、何重にもなって響き渡る。頭が重く痛い。
ハイドラは両手で頭髪を掻きむしって屈み込んでしまうと、涎を流して嘆いた。
「あああううううぅっ……!」
そしてフローリングの床に力の限り拳を打ち付ける。
僅かな希望だったが、それも虚しく散った。
そうなる選択を行ったは自分で、そうしなければ今頃自分は死んでいる。その選択を悔やみはするが、決して間違った判断では無かった。
しかし全てが、あの男性の思い通りなっていると思うと腹立たしい。腸が煮えくり返る思いだ。
一体、自分が何をしたと言うのか。なぜ、自分が見知らぬ男にここまで苦しめられなければならないのか。ただただ疑問だった。
あの男性の正体も、どこかで間接的に関係があるのかも、やはりまったく分からなかった。
「俺は……どうすれば良い……琥珀ぅ……」
嘆くハイドラ。しかしそこで不意に冷静になる。
「……琥珀の死体が無い……!」
もし琥珀が自ら首を切って自害したのであれば、亡骸があるはず。ここにも、ここに来る途中にも、見当たらなかった。だとすれば、あの男性が言ったように生きている可能性は考えられる。が、ただ一つ考えられるのが、あの男性がこんな淡い期待を抱かせるように、予め死体を処理した可能性も十分にある。
しかし、それでもハイドラは、その淡い期待に希望を見出だすしか無かった。
「琥珀……」




