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五十五話『かも知れないですね』

 朝。窓から差し込む朝日によって目を覚ましたハイドラは、重たい瞼を開けた。

 朝日が直接目に降り注ぎ、目映くて何も見えない。

 思わず上半身を起こしたハイドラは日光によって焼けついてしまった視界で琥珀を確認した。

「良かった。落ち着いたか」

 琥珀は夕べとはうって変わって、安らかな表情で眠り、呼吸も実に穏やかな物だった。

 そこでハイドラは大きな溜め息をついて一安心する。

 はっきり言って、昨日は生きた心地がしなかった。こんな感情は生まれて始めてで、ハイドラ自身も驚くほどだった。(よこしま)な考えなど起こす余裕もなかった。

 ……惜しいことをしたな。なんて冗談を考えながらも、ハイドラは琥珀の額を撫でると、ベッドから立ち上がろうとする。

 すると昨日から引き続いて、また、手首を掴まれた。

「待って……」

「……すまない。起こしてしまったか?」

 琥珀はハイドラの手を両手で握る。

 そして少し恥ずかしそうに言った。

「昨日はわがままを聞いて貰って……ありがとうございます。けど……まだ行かないでください」

「可愛い事を言う」

「……私だって恥ずかしいんです。……でも一人になりたくないから」

 ハイドラは横になる。そして腕を広げて、待ち受けの体制を取った。

 それは冗談のつもりで、場を和ませようとしただけだった。

 しかしそこへ、ハイドラの想像を越えて、琥珀は従順に抱きついた。

「……嬉しいです」

 嬉しい誤算なのはこちらですよ。と言いたいハイドラ。

 ラフな格好のおかげか、琥珀の柔らかな感触がこれ以上になく、はっきりと伝わってくる。

 鼻息を荒くしてしまうのを必死に押さえるハイドラは、そこで抱き返した。

「や、やけに素直じゃないか」

「……私も不思議です。でも、嫌じゃ無いんです。落ち着くのです」

 それは嫌味を吐き続けられたハイドラにとっては、嬉しい言葉だった。

「もしかして惚れてしまった・か?」

 笑って言う。これも冗談だった。

 しかし琥珀は良い意味で、ハイドラを裏切った。

「かも知れないですね」

 胸の鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思うくらい、早く大きく心臓は脈を打つ。

 琥珀もぴったりと体を合わせて、身を完全に委ねているのがこれ以上になく嬉しかった。

 そしてそこで邪な考えが蘇りつつあるハイドラは、琥珀の下半身に手を伸ばそうとする。

 しかし突如、響き渡る部屋の扉をノックされる音に、慌てて起き上がるハイドラ。

 ()ね飛ばされた琥珀が、恨むように睨んだ。ハイドラではなく扉を。

 そんな様子の琥珀を見て、ハイドラはひとまず一安心して、扉へ向かった。

「今行く」

 そうして扉を開いた先に立っていたのは、宿主だった。

 何やら手紙をハイドラに差し出している。

 そしてそれを受け取って帰って来たハイドラに、琥珀は尋ねた。

「何のお手紙ですか?」

「メイド長だ……」

 不安げな表情をして、ハイドラは答える。

 そして琥珀を見つめて続けた。

「メイド長には俺の位置が分かるように、マーキング魔法を施して貰っている。そしてこれは緊急の手紙だ……。屋敷で何かあったのだろう……。ここに滞在していなかったら手紙すらも読めていなかった……」

 最後の言葉は、ハイドラなりの琥珀への気遣いだろう。

 琥珀はそれに心の中で感謝しつつ、尋ねた。

「何と……書いてあるのですか」

 ハイドラは封を切って、中身を確認する。

 そしてそれを広げて一瞥すると、震えた声で言った。

「そんな……馬鹿な……。メイドに……裏切り者が……」

 琥珀はそこで立ち上がると、メイド服に手を伸ばして言った。

「急ぎましょう。あなた様」

 あなた様……?

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