五話『死体』
「先手必勝……です」
飛び上がる少女は山賊の首に小さなナイフを突き立てると、そのまま倒れていく死体の横に着地して言った。
もう一人の山賊が気だるそうな少女に睨まれ後退りする。
「こいつ……殺し慣れてやがる……!」
「はぁ……」
ため息で返事をする少女。
山賊は崖の端の方で戦闘を見守る少年を確認すると、少女の隙を見て駆け出し、少年に手を伸ばした。
少女を過信していた少年はそれに何の対応も出来ず、胸ぐらを掴まれそうになる。が、その山賊の手を蹴って弾く者が居た。
山賊が顔を歪ませてそちらへ視線を向ける。するとそこには片足を大きく振り上げて静止する少女が笑みを見せていた。
「馬鹿な……」
確かに隙を見て動いた。完全に不意を突いたはずだ。と山賊は少女に接近を許してしまった事に対して顔を青くする。
斧での大降りな攻撃を考えると、出来れば不必要な接近は避けたかった。
対する少女の武器は小さなナイフ。至近距離での戦闘においては、巨大な斧では太刀打ちできない。
この後の行動を考えて硬直する山賊に少女は足をゆっくりと下ろしながら言った。
「人質を取ろうと必死過ぎて私の接近に気付けなかったのですよ」
「お前……何者なんだ……」
「琥珀。ただの琥珀です。聞いた事も無いでしょ? 山賊さん」
そう言って堂々と歩み寄ってくる少女に山賊はダメ元で斧を振り払おうとする。
対して少女は素早く間合いを詰めると振り払われた斧が完全な威力を生む前に、もっと平たく言えば斧が動き始める前に、柄の部分を片手で握って止めた。
「ばいびー」
可愛い声とは裏腹に、その後の少女の行動は惨たらしいものだった。
動かなくなる死体を前に、少年は言葉を失ってしまう。
「弱い人達で助かりました。お怪我はありませんか?」
「あぁ。大丈夫だが……。おえ……吐き気がする……」
うずくまる少年。
「本当に大丈夫ですか? 人の死体は始めてですか? 進みますか? 引き返しますか?」
ただでさえ具合が悪いと言うのに、少女からの質問攻めに少年は加えて頭を重くする。
「背中を擦るくらいできんのか……お前は……」
少女は少年の隣に立つと、言われた通りに背中を擦る。
口元を押さえる少年は声を籠らせて続けた。
「多くはないが人の死体などそれなりに見てきている。だが、だからと言って慣れると言うものでもないだろう……」
確かにそうだと少女は思った。
少年と同じく常に死体を見ている訳では無い自分が、何故か死体に対して抵抗の無い事に不思議に思う。
今も横たわる異臭を放つ死体へ改めて視線を移して見ても、何も感じなかった。
「私は……平気です」
「お前……本当に女か……?」
「……まぁ子供産めますからそうなんじゃ無いんですか?」
「……」
少年は少女の皮肉を無視するよに、先へと続く道を茫然と眺めた。
「くそっ……。大事な商談だって言うのによ……」




