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四十七話『煩わしいけど、合理的ですね』

 風が葉を鳴らし、ざわめく森。

 そこに木霊(こだま)するは、少女の荒い吐息と獣の声。  

 少女琥珀は血塗れの顔を上げて、空を見上げた。

 分厚い雲が、下り始めてしばらくする太陽を覆い隠している。まもなく雨が降るだろう。

「また雨ですか」

 少女は小さな声でそう呟くと、意を決したように前を向く。

 周囲は唸り声を上げる狼に包囲されていた。

 主であるハイドラは木の高い位置にある枝にしがみついて、悲鳴を上げている。いや、情けない事にハイドラは、幹をよじ登れないとほざいたので、狼の群れに完全に包囲される前に投げて引っ掛けておいた……が正しかった。

 咄嗟の判断だったが、今ならその判断は正解だったと言えるだろう。

「さて、問題はどうやって切り抜けるか……ですか」

 既に数体は倒したが、はっきり言って切りがなかった。

 琥珀は額から流れてくる血と汗を腕を拭う。

「琥珀!! 助けてくれ! 魔物が木を登ろうとしている!!」

 右後ろの方から聞こえてくる絶叫に琥珀は嫌気が差す。

 助けて欲しいのはこちらだった。

 それに対峙している敵は魔物でもなんでもなく、ただの狼。まぁ、ハイドラからすれば魔物と同意義か。と琥珀は嘲笑を浮かべると、一匹の狼に駆け出した。

 そしてそのまま、脳天へ小さなナイフを突き刺す。

 次に悲鳴を上げる事なく、痙攣する狼からナイフを抜き取ると、近くに居る狼に向けて飛び跳ねた。

「……!」

 しかしそれに合わせるように跳ねた狼によって横腹に体当たりを食らってしまい、琥珀は地面を転がる。

 当然、狼がその隙を逃すはずも無く、琥珀は立ち上がる間もなく無数の狼に囲まれてしまった。

「琥珀うううううう!!!」

 ハイドラの情けない声が響き渡る。

 当然、琥珀からの返事は無い。次は自分の番だと恐怖に(おのの)いていると、不意に山のように群がる狼が、一斉に吹き飛ばされた。

 そしてそこに立っていたのは、全身から大量の血を流す琥珀だった。

「犬畜生風情がぁ!!」

 片腕が焼きただれている。炎系の魔法で自爆したのだろう。

 次に琥珀は、まだ懲りずに向かってくる一匹の狼に無事な方の手を向けると、

「波動魔法『サドマ』!!」

 魔法名を叫んだ。

 すると狼は進行方向とは逆の方へ、唐突に吹き飛ばされる。

 何が起きたのか、狼達には理解できていない様子。

 そこで一匹の狼が吠えると、他の狼達が一斉にある方向へ移動を始めた。

 琥珀は、自分を睨みつつその横を素通りしていく狼達を目で追っていく。

 そしてそこで狼達の狙いが分かった。

「ひぃぃぃ!! 琥珀ぅぅ!!!」

 狼の狙いはハイドラだった。

 琥珀を強敵と認め、それでも諦めきれない狼達が取った行動は、手っ取り早くひ弱なハイドラを狙う事だった。

「煩わしいけど、合理的ですね」

「良いから早く助けろ!!」

 契約の魔法使いハイドラも、浅知恵が通用しない獣相手には実に無力ですね。と琥珀は心の中で嘲笑う。

「はいはい、今助けますよー」

 そう言って琥珀は駆け出すが、狼がそこを通すはずも無く、今度は狼達が足止めするように琥珀の前に立ち塞がった。

「いちいち(しゃく)(さわ)る犬畜生ですね」

「琥珀! 早く!! もう登りきって来るぞ!!」

 うるさいな。と思いつつ、琥珀はハイドラへ視線を移す。

 すると確かに一匹の狼が、既に幹を登りきってハイドラに迫っていた。

 対して琥珀は人差し指を立てて、指先をその狼に合わせると、

「氷魔法『ヘイル』」

 魔法名を口にし、握り拳ほどの大きさの氷粒を放出する。

 そしてそれは見事に狼の頭部に被弾し、バランスを崩した狼は木の上から転がり落ちた。

 何もかも邪魔をする琥珀へ、狼は吠える。そしてその怒りの矛先は、また琥珀へ向いた。

「諦めが悪いですね」

 またしても狼達が琥珀を包囲する。

 そんな狼達に琥珀は続けた。

「大人しく自分達の仲間の死骸でも喰えば良いじゃ無いですか。肉の量も私達よりも多い事ですし。……あまりしつこくすると、全滅してしまいますよ? 犬畜生」

 琥珀は口角を吊り上げて不敵に笑った。

 狼達もバカにされているのが分かっているのかいないのか、犬歯を剥き出しにして唸っている。

 そして唐突に、そこへ場違いな人物が飄々(ひょうしょう)と現れた。

「まぁまぁ。全滅はやめてあげてよ。生態系が崩れちゃう」

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