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四十三話『まるで、スラム街の住人みたいな顔してますよ』

 昼過ぎ、午後の始まり。普段なら焼き菓子に紅茶とブレイクタイムを楽しんでいる所だが今日は違った。

 見知らぬ部屋で、なにやら従者との雰囲気が悪い。

 従者の癖に空気も読めないのかと、ハイドラはさぞご立腹だったが、こうなった理由が理由なだけに、あまり強気な態度は取れなかった。

 今も丸椅子に腰掛けて背を見せる琥珀に、ハイドラはよそよそしく声をかける。

「……ところで琥珀、ここはどこなんだ?」

「……さぁ。どこでしょうね」

 琥珀は素っ気なく返しす。ハイドラも困った表情をしているが、あの仕打ちを考えれば当然の結果だと言えるだろう。

 一晩中、世話を焼いてあげたのは誰だと思っているのか。と琥珀は昨晩の奉仕を思い出しては後悔する。

 しかしここで機嫌を損ねていても話は進まないし、大人げないと言うもの。子供のイタズラだと思って寛大な心で、受け答えくらいはしてやる事にする。

「……もう元気なんですか?」

「あ……あぁ、そうだな。元気だ」

「ハイドラ様が倒れてしまって、商談相手様の自宅で看病させて頂いたのですよ。お薬まで貰いましたから、それが効いたのでしょう。後でお礼を言ってください」

「そ、そうだったのか……」

 ハイドラはそこで俯いてしまう。落ち込んでいるようだ。

 しかし今更、何を落ち込む事があるのか。琥珀は少々、不思議だった。

 ハイドラが情けない人生を、今まさに歩んでいるのは、本人も周囲の人間である琥珀もよく知っている事。

 さっきも実に情けない寝言を漏らしていた。

「そう言えば、お父さんって言ってましたけど、どんな夢を見ていたのですか?」

 意地悪な質問だと自分でも思う。だがこれくらいの腹いせ、ハイドラが許さなくとも、神はきっと許してくれるだろう。と、都合の悪い事はなんでも神に許しを請う琥珀。

 悪い笑みが漏れてしまいそうになるのを押さえて、琥珀は俯くハイドラの顔を覗き込んだ。

「なーに俯いているんですか」

 どんな表情をしているのだろう。とただの興味本意だった。きっとしょんぼりとしているか、寝言を暴露をされて恥ずかしそうにしているのか。そのどちらかと思っていた。……しかし実際にハイドラが浮かべていた表情はそのどちらでも無く……鬼のような形相だった。

 怒っている訳では無い。冷酷な……それこそ人を殺める事も躊躇(ためら)う事なく犯してしまいそうな、危ない冷ややかな表情。

「何でそのような怖い顔をしているのですか!?」

 ただの一般人ならば恐れて近付きもしないだろう。

 しかし琥珀は違った。

「……なにか思い悩んでいるのですか? まるで、スラム街の住人みたいな顔してますよ」

 ハイドラは徐に顔をそらす。

「ほっとけ。嫌な夢を見ていたんだ。……それに主の顔を急に覗き込むな、変態」

「寝ている女の子の口に、指を突っ込む人には言われたくないですよー」

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