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三十四話『ねー。シャルルループさん?』


 ハイドラと別れて琥珀は屋敷に戻るべく、帰路をとぼとぼと歩いていた。

 空の彼方に見える黒い雲は時々稲光いなびかりしている。ここも時期に雨が襲うだろう。風も強まってきた。

 琥珀はその歩みを止める事無く、周囲の町並みを見渡す。

 雨を察してか、住人たちが雨戸を戸締まりしていた。人通りも減ってきている。

「はぁ、めんどくさいな」

 主であるハイドラは進言通り、有権者の元へ出向くそうだ。

 あの主が人に頭を下げられるなどとは思ってなかっただけに意外な結果だった。

 それも自分を連れず一人で行くと言うのだから、それにも驚かされた。

「あぁ、めんどくさーい」

 琥珀に命じられた指示は屋敷に戻り、屋敷の片付けを手伝うと言うもの。そして最悪の場合に備えて、転居の準備をする事だったつまりは引っ越しである。

 その逃げ腰の姿勢がいかにもあの人らしい。

「ほんと馬鹿な人」

 実は言うと琥珀にとって打開策は、ハイドラに進言したあの言葉以外にももう一つあった。

 それも、より手っ取り早く確実なもの。

 琥珀はポケットから小瓶をがさごそと取り出すと、その小瓶に向けて言った。

「ねー。シャルルループさん?」









「悲惨だなー」

 屋敷に帰った琥珀の第一声がそれだった。

 雨はざざぶり。どう見ても数が減っているメイド達は疲労しきった顔で、雨に打たれながら片付けの作業をしていた。

 死体が既に無いのは小さな救いだった。別に死体があったからと言って何か思う訳では無いが、やはりあの異臭が不快なのには変わらない。

 そこで琥珀は噴水越しにメイド長の顔を見つけた。

 なんだ生きてたのか。と思ったのは心に秘めて、声をかける。

「メイド長。お疲れ様です」

 大きな声だった訳では無いが、沈黙に包まれているこの空間では、簡単にメイド長に届いた。

 振り向くメイド長に笑顔は無い。げっそりとして今にも倒れてしまいそうだった。

「あなた……無事だったのね」

「はいなんとか」

「主は……?」

「あー……。何か用事があるそうで、私とは別行動してます」

 琥珀は後頭部を(さす)って目をそらして答える。

 はぐらかすつもりは無かったが、一から説明するのもまた面倒だった。

 ただでさえ、今からこの作業に取り掛からなければならないと言うのに、これ以上めんどくさいものが増えてなるものか。と琥珀が心の中で愚痴を漏らしていると、メイド長が首を傾げて言った。

「そう言えばついさっき、あなた宛に来客があったわよ。真っ白い髪をして、真っ黒の服を来た細身の人。知り合い?」

 それを聞いてすぐにピーンと来た。あの人しか居ない。

「あー。そうですね。恐らく、スラム街でお世話になった人だと思います」

「あら、そうなの? あなたの事を心配していた様子だったわ。まだ近くに居ると思う。……行っても良いけど早く帰ってきてね」

 へぇ……。と琥珀は小声を漏らす。メイド長の粋な計らいに感謝すると同時に、どうせ力仕事を任せたいのだろうと裏で勘ぐってしまう自分が嫌いだった。

 しかしここは素直に甘える事にする。

「はーい。ありがとうございます」

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