三話『そんな事を私に言われても困ります』
昼前。少年は商談の仕事で人里から少しだけ離れた屋敷から街の中心へと出向く。
当然、お供に連れていくのは例の少女だった。
「あんな騒ぎを起こしたのにまだ私を気に掛けて頂けるなんて、懐が広いんですね」
嫌み混じりの少女の冷たい声。
「だから俺は見た目が第一だと言ってるだろうが」
老人が散歩に利用しそうな温な道を二人は進む。しかしそんな温な道で、向かいから通り過ぎて行く老人は奇抜なメイド服を着る少女に目を奪われていた。
少女はその不快な視線を誤魔化すように言う。
「……私が年を取るなりしてブスになれば、あなた様はいとも簡単に見放すと言う事ですね」
「基本的にはそうだな。だが、言ったように性格は第二だ。それこそ少し崩れたくらいの容姿を巻き返すほどの性格があれば問題ない」
「……えらそーに」
低い声で漏らすように呟く少女。
「何? 何か言ったか? まぁ、もっとも、お前は性格面は全然駄目だがな」
「別に期待もしてませんよ。さっさと捨てられた方が気が楽です」
小さく笑う少年。
少年は少女から垣間見えた本音を聞き逃さなかった。
さっさと捨てられた方が気が楽と言うのは、長い時を共有して情が芽生え、それから別れる方が辛いと言う言葉の裏返し。そう考える少年には少女は、表に出さないだけで根は情深い人間に感じた。
「だったら俺は期待しておこう」
「そうですか」
そっぽを向いてしまう少女。
それも容姿で人を判断する少年を良く思っていない証拠。すなわち少女は人間の内面を尊重する人種だと言う事が、少年には推測できた。
「ヒック」
唐突に発せられたのは少年のしゃっくりだった。
「おい、何か気の効く嘘を吐いてくれ」
「わがままですね。嘘はありませんが、あなた様を驚かす事は言えますよ」
「申してみろ」
「実は私、中古の女なんですよ」
少年は思わず歩みを止めてしまう。そして顔を蒼白させて少女を見つめる。
「それはまことか……!?」
「嘘ですよ」
「……嘘……か。良かった……」
本気で安堵する少年に少女は追撃をかける。
「けど世の中の女性は平気で嘘を吐いて処女を名乗るので、騙されないように気を付けた方が良いですよ」
「え……? お前は大丈夫なんだろな?」
「さぁどうでしょうね」
「今日はこちらにはいらっしゃらないですよ」
人々が行き交う昼過ぎの街。
人の話し声に混じって馬車を引く音が響き渡る。
凹凸の激しい石畳の上を走らせているのか、激しい音を立てるその馬車は、道路の端に立つ二人の背後をそのまま駆け抜けていった。
「なんだと……!? 商談の約束は今日だっただろう!?」
煉瓦造りの屋敷の扉から顔を出す少女に、少年は叫ぶように言った。
「そんな事を私に言われても困ります」
「お前の主だろう!?」
「私は別に召し使いと言う訳では無いのです」
「そうなのか……?」
少年は扉から覗くように半身を出す少女を一瞥する。
服装こそ召し使いのそのものだが、確かにこの態度は従者だとすればあるまじき態度だった。
故に少年はこの少女の立場が気になる。
「じゃあ、お前は何者なんだよ」
「養子です。ただの養子。せめて屋敷の世話くらいはしようと思ってこんな格好をしているのです」
「じゃあ、親はどこに行った?」
「山に行きました」
少女はそう言って言葉の通り山を指差した。
二人が背後の山に視線を向けると、少年はそこはかと無く嫌そうに言った。
「山か……。昔にも同じことがあったな……」
隣の少女が訪ねる。
「行くのですか?」
「……しか無いなぁ」
そうしてとぼとぼと少年はそちらに歩き出す。
養子の少女に一礼してからその後を追いかける少女。
そんな二人の背に養子の少女は手を振りながら言った。
「山賊に気を付けてくださいねー」




