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二十八話『我が名は契約の魔法使いハイドラ。』

「今は……シャルルループだったか? お前は……どうしたい?」

 黙り込む琥珀を余所に、ハイドラは足からの出血を手で押さえている少女を見下ろして言った。

「どうしたいと……私に訪ねられても……困ります」

 少女は視線を落としたまま答える。

「そうか。じゃあ、どうしてお前はシャルルループを名乗った?」

「それは私が……シャルルループ様に買われたからです。屋敷が襲われて……たまたま、そこに居た私に、養子になれば命は助けてやろう……って」

「それでお前は幸せなのか?」

「幸せな訳、無いじゃないですか! そのメイドさんが言ったような事もされましたよ! もうお嫁にもいけません……」

 ハイドラは煙と共に契約書を手に出現させると、それを広げ少女に見せながら言った。

「我が名は契約の魔法使いハイドラ。お前が今より、良い人生を望むのならば、俺の所のメイドとして働け」

 謳い文句。その言葉に乗せられて琥珀も契約に至った。

 別に後悔している訳では無い。

 事実、スラム街に居た頃よりは、良い人生を歩めている。

 それには感謝している……が、その結果として失った物も小さくはなかった。

 琥珀はそのもう取り返しのつかないそれを思い出して拳を握る。

 目前では早くも、契約書に少女の血の拇印が押されていた。

「随分と早い決心ですね」

 少女が小さな悲鳴を上げ、肩をすくめて縮こまる。

 随分と嫌われたものだ。

 そこへハイドラが割って入って言った。

「これで、テアは敵じゃない。お前のメイド仲間だ。分かったな?」

「テア??」

「はい……。幽香(ゆうか)テア……です」

 テアと呼ばれ名乗った少女は、近くの木の幹に手を置いて立ち上がる。

 そしてハイドラを見て続けた。

「それで……このまま乗り込むのですか?」

「……無論だ。奴を倒さないと、休息は訪れない。このまま逃げ帰っても、どうせまた刺客を送り込んで来るだろう」

 しかしだからと言って、それはやはり無謀では無いかと、琥珀は思う。

 それに歩く事もまま出来ない仲間を連れていては余計だ。勝算などあるはずもない。

 琥珀が今も鮮血を垂れ流す足をまじまじと見ていると、その本人が苦痛に顔を歪めて言った。

「案内なら、私が出来ます……」

 出来る訳無いだろう。と琥珀は心の中で冷たく毒を吐く。

 一体どの口が言っているのか。

 自分が足を引っ張っているのを分からないのか。そもそも先程までは、敵だった自分の立場を理解しているのか。

 ハイドラもハイドラで判断力に欠けていると言わざるを得ない。

 ここは一旦退いて、戦力を整えたの方が良いのは明白。それの何が気に入らないのか。

 下らない自尊心がそうさせないのか。

 琥珀に小さな不満が溜まっていく。

「その必要は無い」

 テアの質問に唐突にそう答えたのは、ハイドラでも琥珀でも無かった。

 皆が一斉に声の元へ視線を向ける。

 するとそこに居たのは、極彩色のスーツを着るシャルルループ本人だった。

 森の中心から堂々と歩いて不敵な笑みを浮かべている。

 そして腕を広げて言った。

「ミスターハイドラ! 人の養子に手を出すのはちょっとおいたが過ぎるんじゃないかい?」

 シャルルループを睨んでハイドラは返す。

「お前は……俺の全てに手を出した。許さんぞ……!」

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