二十四話『お前だけが被害者では無いのだぞ?』
「君、ハイドラの所で働いているんだって?」
カルテを持つ医者がやってきて簡単を質問をいくつか。
そしてそれらの答えをカルテに記入し終えた医者が、琥珀から管を外しながら明らかに診察に関係無い事を唐突に聞いた。
琥珀は首を傾げながらも答える。
「そうですが……。ところでその主はどこに居るのですか?」
屋敷の状態を思い出すと、とてもじゃないがそこで寝泊まり出来るような環境では無い。
自分を病院に預けて今、主は何をしているのか、実は気になって仕方がなかった。
医者は笑って答える。
「さぁね。私も分からんよ。ただ時折、私の所へこうして従者を預けてくるんだ。それも皆、魔力に異常をきたしている」
医者の表情が曇る。
それはどこか琥珀を案じるような表情だった。
琥珀もどことなくそれを察する。と同時に医者の思考がなんとなく読めた。
魔力に異常をきたしたいるメイドが度々(たびたび)運ばれてくる……となると、心配の一つもすると言うもの。
何か良からぬ事でもされているじゃないか?と言いたげに感じる。
それに関しては琥珀は、言及出来なかった。むしろ自分が聞きたいくらいだ。
「時折……? と言う事は、私の前にも同じような事があったのですか?」
思いきって踏み込んでみる。
しかし医者の表情からして反応が悪い。
余計な事を口走ってしまったと焦る表情だ。
「この話はやめよう」
「何故ですか? 教えて下さい」
「だってほら、君を迎えに来たようだ」
医者はそう言って背後へ振り向いた。
琥珀も医者の奥を、背筋を伸ばして覗き込む。
「琥珀……無事だったんだな……!」
そこには驚く表情をするハイドラが居た。
「ハイドラ様……」
ハイドラは医者を見て尋ねる。
「もう大丈夫なんだろう?」
「あぁ……何の問題も無いが……」
ハイドラは琥珀の手を引っ張って言った。
「よしっ。じゃあ早速だが助けてくれ」
病院から出てすぐ、メイド服に着替えさせられた琥珀の手首をハイドラは引っ張りながら言った。
「シャルルループとか言うふざけた野郎を懲らしめに行くぞ!」
「……ですが私はまだ病み上がりですよ?」
心配をして見舞いに来てくれたかと思えばこれだった。
結局、時分の事しか考えていない。思わずため息をつく。
その自己中心に振り回されている自分にも嫌気がする。
これも初めから期待していた訳ではないが、やっぱり失望しざるを得なかった。
「俺だって精神的に追い込まれているんだ。お前だけが被害者では無いのだぞ?」
追い討ちを掛けるようにこの言い草、説教だった。
あ、やっぱりこの人、最低だ。と思うと同時に病院での「無事だったんだな……!」と言う心配は自分に向けられたものでは無く、ハイドラ自身への心配だった事を知る琥珀。
「なんかもう……私は悲しいです」
「だからそれもお前だけじゃないんだ!俺だって悲しいんだ!!」
琥珀は拳を固く握りしめた。
殴ってやりたい。しかし契約の魔法のせいか、それが実行できなかった。
歯を食い縛り、視線を握られる手首にそらして答える。
「……そうですか」
「残されたメイド達も屋敷の復旧作業に取り掛かって貰っている。いつ追い討ちが来ることか。だから先手を打つんだ。おまえが頼りなんだ!」
琥珀の手首を掴むハイドラの手に力が入る。
圧迫される手首に意識を向けると、その手は汗ばんでいた。
怪訝に思う琥珀が手首からハイドラへ視線を移す。
すると顔を隠すように、改めて前を向くハイドラ。
琥珀は見逃さなかった。
歯を噛み締めて、悔しさに耐えるハイドラのその表情を。
「ハイドラ……様。……はぁ、分かりましたよ……。仕方ないですね」
そうだ、この人は強い人じゃなかったな。とつい甘くなってしまう琥珀。
しかしそこには、もうどうにでもなれ、と自暴自棄になる思いもあった。
「分かればよろしい。では行くか」




