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二十三話『でも……どうして?』

「ううおおおあああああああっ!!!!」

 濁った奇声と共に現れた琥珀は、時雨の首を絞める男を飛び蹴りで吹き飛ばした。

 咳き込む時雨が地面に膝をつき、琥珀へ視線を移す。

 するとそこには肩を揺らして呼吸する琥珀が、蹴り飛ばした人物をずっと目で追いかけていた。

「……それが……君の本当の力なんだね……」

 時雨のそんな言葉に返事をする事も無く、琥珀は再び駆け出す。

 そして屋敷の壁に埋もれる男の腹部に追撃の蹴りをいれた。

 腹の中の物を一気に吐き出し、琥珀の脹ら(ふくらはぎ)を汚す男。

 屋敷の木製の壁が割れ、破片が二人に降り注ぐ。

 その中で琥珀は男の胸ぐらを掴み上げると、そのまま回転して男を空高く投げた。

 そうして風を切って落ちてくる男の頬を、力一杯に殴り飛ばす。

 男は地面を(えぐり)りながら転がると、一筋の血の跡を地面に残していった。

「あははははははは……! ……死ね……」

 跳ねるように距離を詰める琥珀。そのまま、もうぴくりとも動かない男の後頭部を鷲掴みにすると、腕を振り上げ再び地面に叩き付けた。

 そしてそれを流れるように何度も繰り返す。

 その度に響くのは男の悲鳴などではなく、痛々しく轟く地面と顔の衝突音だった。

「もういい! やめろ! そいつはもう、死んでいる……!」

 そこへ背後から駆け寄るハイドラが制止するよう叫ぶが、琥珀は止まらない。

「琥珀!!」

 名を大きな声で呼んだ。

 琥珀がぴたっと動きを止める。

 その声は掠れていたが、琥珀にしっかりと届いたようだった。

「……契約に基づき命じる……。その者から手を離せ。そして……休んでくれ」

 琥珀が捨てるように死体から手を離す。そのまま背後に振り向むと、膝をついて目をそっと閉じて言った。

「はい。……ありがとうございます」

 その表情はどこか悲し気で、穏やかなものだった。

 心を失い自暴自棄になって周りに危害を加えるくらいなら、自分を縛る契約だが、それによって動きを封じられるほうが、よっぽど安心するのだろう。

 琥珀から力が抜け、硬直する体が柔らかくなる。

 そうして意識を失った琥珀が次に目を覚ましたのは二日後の事だった。







 体が痛い。

 目を覚ました琥珀が真っ先に感じた事だった。

「ここは……」

 目前には見知らぬ天井が広がっていた。視界の端には白いカーテン。

 そして今、自分が置かれている状況。

 察するに、ここは病院だと思う。

「でも……どうして?」

 琥珀は上半身を起こして、思い出せる限りの新しい記憶を探っていく。

 屋敷が襲われていた。それが集団によるものか、単独によるものかは分からなかったが、その内の一人は倒した。

「私は死にかけて……」

 そこで魔法薬によって、無理矢理蘇生させられた事を思い出す。

 苦しかった感覚が蘇り、体が身震いする。

 そこで白い病衣を着る自分の体へ視線を落とした琥珀は、その光景に目を疑った。

「なにこれ……」

 体の至る箇所が管で繋がれていた。

 その一つを目で追いかけていくと、透明のチューブの中を赤い鮮血が抜き取られていくように流れていた。

 そうしてそれは大型の機械を通って、再び自分の体の中へ戻ってきていた。

 この不愉快な管を今すぐに引き千切りってやりたいところだったが、これほど大量に繋がれていればその気も失せてしまう。

「おーい。誰か居ませんかー?」

 動く事も出来ない琥珀は、そこから自分以外誰も居ない病室で呼び掛けた。

 もちろんそれに応答する者が居ないのは分かっている。

 途端に虚しくなるが、それがどうしたものか、琥珀の予想に反してその問いに返す声があった。

「目が覚めたかね?」

 声の主は見当たらない。

 なにやらその渋い声は、どこぞのスピーカーから聞こえるようだった。

「目、覚めました」

 琥珀はただ呆然と前を眺めて答える。

「それは良かった。一人でぶつぶつと何か言ってるものだから、てっきり人格が壊れているのかと思ったよ。今そちらに行くから待ってくれたまえ」

 琥珀の返事を待つ事も無く、ブツッと音声が途切れる音がした。

「はぁ……」

 自分の置かれている状況が今一掴めない琥珀は、大きなため息をついて、きっと医者だと思われる人物を待った。

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