二話『でも子供産めますもーん』
「その顔はなんだ? 不服なのか?」
朝の食卓。メイド達を壁沿いに並べ、優雅な食事を前にする少年に、少女は背後からナプキンを着けた。
先程の少年の言葉は向かいの鏡越しに映る少女の気だるそうな顔を見て言ったものだ。
「不服……と言う訳ではありませんよ。私にこのような仕事をさせるのは、あなた様が私の事を気に入って下さっているから。そうですよね」
少年は自分の肩を小さく叩く。
「おい。教えたマニュアルにはここで胸を押し当てると書いてあっただろう? 何の為に高い金を出してそのような服を着せていると思っている?」
話を聞けよ。と思わず突っ込んでしまいそうになるのをグッと堪えて、少女は少年の背に全体重をかけた。
あまりにも唐突過ぎた事からか、その重みに一切抗えず、一気に倒れていく少年。
そしてそのまま目前のケーキに顔から突っ込んだ。
「あ……」
時が止まる。
そうして少しの間、硬直していた少年が勢い良く体を起こすと、クリームだらけの顔を少女に向けて言った。
「あ……じゃないよな!? 限度を知らないのかお前は!?」
「申し訳ございません。すぐに拭きますね」
棒読みでそう言った少女は新しいナプキンを取り出すが、少年はそれを勢い良く奪い取ると席を立った。
「もういい! ラチがあかん! 顔を洗ってくる! お前はテーブルを片付けておけ!!」
少女が軽くお辞儀をし少年の背を見送ると、テーブルの上を片付けようと手を伸ばす。
しかし少女は唐突に横腹に強い衝撃を感じると、そのまま押されるように床に倒れ込んでしまう。
「なに……?」
気が付けば他のメイド達が少女を取り囲み、冷たい視線を送っていた。
「さすが態度の悪い主が選んだ事はありますね。従者も良く似た者揃いです」
少女はそこで立ち上がると、首を鳴らして静かな声で続ける。
「しかし私もまた、その主に選ばれた者。こう見えて私、結構乱暴なんですよ……?」
「おいおいおいおい!!! 何をしているんだ!? おい!!」
「あなた様が私から目をそらしたから、こうなったのですよ」
顔を洗った少年が部屋に戻ってくると、テーブルの上を片付ける事は愚か、そのテーブルの上に乗って一人のメイドの胸ぐらを掴み上げる少女が居た。
少年はその場でさっと腕を伸ばすと少し考え、
「とりあえず放せ。良いからまずはその手を放せ」
諭すように手を上下させて言う。
それを見て少女は落とすようにメイドを解放した。
テーブルの上にメイドが音を立てて転がる。そこからの反応が無いとなると既に気を失っているのだろう。
「馬鹿力が……」
「でも子供生めますよ?」
少女の皮肉が少年に炸裂する。
少年はこの子供の件はしばらく引っ張られるなと覚悟し、重い頭を抱えた。
「料理を作る事が出来ないだけで飽きたらず、飯その物すらも食わせないとは……」
「でも子供生めますもーん」




