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十九話『困らせてしまってごめんなさい』

「ハイドラ様。起きてください。ふて寝したって何も変わりませんよ」

 朝。いつもなら意気揚々と自室から出てくると言うのに、今回は少し様子が違った。

 既に決まった時間をとっくに過ぎて居ると言うのに、ハイドラが一向に姿を見せないのである。

 そうしてメイド達がざわめく中、琥珀が代表してハイドラの部屋の扉を叩いてる今の状況に至る。

 と言うのも、実はハイドラが出てこない理由はメイド達の中ではハッキリとしていた。

「薄情者どもめ! 俺なんかもう、どうでも良いのだろう!」

 不意に部屋からハイドラの籠った声が響く。

「どうでも良くなんか無いです。でないとわざわざこうして呼びに来てませんよ」

「うるさいうるさい! そんなに弟が可愛いなら弟と戯れれば良いだろう!」

 やっぱり気にしてたか……と琥珀は案の定と言うか、もはや平常運転に思えるハイドラの言動に、呆れた表情を扉に向かって浮かべる。

 昨日のうちに時雨を牢から出して、契約を済ませ、そして屋敷内を案内している時の事だった。

 時雨のあの容姿だ、他のメイド達が可愛がらない訳もなく、ちやはやとされる弟を見てハイドラの態度が徐々に急変していった。

 つまりは嫉妬である。

 実に情けない。と琥珀は冷たいと笑みまで浮かべた。

 けどこうして扉の前で待ち続けても仕方がないと覚悟を決めると、

「失礼します」

 琥珀はそう告げ、主の許可も取らず部屋に入っていった。

 さすがにそれはまずいのでは……と他のメイド達が琥珀に代わって冷や汗を流す。

 そうして琥珀が扉を閉め、部屋内を一瞥すると……これも予想通りと言うか、ハイドラはベットの上で毛布にくるまっていた。

「ハイドラ様。今日のご予定に、商談がありますよ。準備してください」

 不意に間近から聞こえる琥珀の声に、ハイドラが毛布から顔を出す。

「何勝手に入って来てるんだ!!」

「鍵開いてました」

「だからって勝手に入って良い訳ないだろう!?」

「主の一大事に駆け付けたのです。なにもおかしい事はありません。だっていつもの時間はとっくに過ぎてますよ? 主の身に何かあったのでは無いかと、メイド一同心配しているのです」

 ぐぬぬ……とハイドラはマニュアル通りの対応をする琥珀に何も言い返せなかった。

 それに見かねた琥珀は大きく溜め息をついてから続けた。

「おはようございます。ハイドラ様。今日も力強く茂る大自然の如く、凛々しいお姿ですよ。……って早く言わせてくださいよ。木曜日は短いとは言え暗記するの大変なんですから」

 まぁ全然凛々しくは無いけどね。と今のハイドラを見て琥珀は心の中で毒を吐きながら笑った。

 そうしてしばらく琥珀を睨むハイドラだったが、しぶしぶ毛布から出てくる。

「俺がそうさせたのは分かっている……。だが少しくらい俺もちやはほやしてくれても良いではないか!」

 と子供のような主張に琥珀はまた苦笑い。

 そのまま自然にハイドラの寝間着のボタンを外していく。

「……私では力不足でしょうか」

「どう言う意味だ?」

「いえ、深い意味では無いのですが、少なくとも私は弟様よりハイドラ様の方が良いな……って思っただけですよ」

 琥珀がそのまま寝間着を脱がしていく。

 ハイドラは返す言葉が見つからなかった。悪い気はしないが、こっぱずかしい故に、何と言えば良いのか……。

 そんなハイドラの困った表情を見て、琥珀は微笑んで続けた。

「困らせてしまってごめんなさい」

 そしてハイドラの寝間着を腕にかけ、扉へ進みながら話を変える。

「ただ私が感じたのは……弟様……やっぱり良からぬ事を考えているようには思いました。……肉親を疑うような発言は謝ります……が、どうか頭の片隅においといてください」

 琥珀はそう言って頭を下げ、部屋を後にする。

 ハイドラも悩んだ末、部屋から出る事にした。

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