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二十七話『グリムソウル』

 異変は唐突に訪れた。

 不機嫌なままハイドラの城を徘徊する琥珀を襲ったのは、突然な振動だった。

 そしてすぐに自身を呼ぶ声がする。

「琥珀よ! 探したぞ!」

 そう言ってしがみついて来るのは白雨だった。

「なに……この揺れ……もしか

して……」

「あぁ、想像よりずっと早かったが、奴が来た……!」

 廊下に並べられている花瓶が次々に音を立てて倒れていく。

 琥珀は近くの窓に駆け付けると、外を覗いて言った。

「グリムソウル……!!」

 強烈に降る雨の中、グリムソウルが悠々と空に浮いていた。そして、

「礎の間で待ってるよ。白雨、時雨、そして琥珀ちゃん」

 その声はどう言う訳か鮮明に耳に届いた。魔法の力だろうか。

 グリムソウルはそのまま屋上の方へ消えて行った。

「琥珀よ! 時雨には既に事情を話した。奴らも礎の間に向かっているだろう!」

「それで、勝算とやらはどうなったの?」

「任せておけ! ばっちりだ!」

「分かった。期待してるから」

 そこで琥珀と白雨は顔を見合わせると、礎の間へ向けて駆け出した。





 礎の間へ向かうエレベーター。

 その中で琥珀と白雨は異常なまでの緊張に襲われていた。

 既に礎の間にエレベーターが到達していた事から、既に時雨ともう一人の琥珀はグリムソウル対峙している事だろう。急がなければならない。

 しかしそうして焦れば焦るほど、エレベーターの上昇が遅く感じられた。

「なぁ……琥珀よ」

 緊張を解す為か、少し震えた声で白雨が声を掛ける。

「……なに?」

「キス……しても良いか?」

 突然にどうしたんだと言うのかこいつは。

 はっきり言って返答に困る。

 そうして琥珀が戸惑っていると、白雨は無理矢理に琥珀の頭を抑え込み、口付けを行った。

「……んん?!」

 琥珀から驚愕の声が漏れるが、白雨はそれを止めようとしない。

 しかし琥珀はどこか冷静だった。

 このままキスを受け入れて白雨から少しでも緊張を解す事が出来るのだとしたら、ここは大人しくしているべきでは無いのかと。

 どこまでも打算的で合理的であったが、それほど不快な事でも無い。

 そうしてエレベーターが礎の間へ辿り着くギリギリのギリギリまで唇を合わせて居た二人だったが、運命の時は冷酷に訪れた。

「頑張るぞ。琥珀」

「そーですねー」

 エレベーターの扉が開かれる。

 そしてそこで見た景色は……天井に大きな穴を開けられた事により、雨で水浸しになる礎の間にて――













――血の池の上で横たわる琥珀とその傍らで声を上げて悲観する時雨だった。

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