二十六話『琥珀は報われない……! 絶対に……!』
あれから半日程掛けて、琥珀と白雨は時雨の元へ訪れていた。
白雨は大量にボディーガードを連れた時雨に連れられてどこかへ。そして琥珀はどう言う訳か、もう一人の琥珀と対面していた。
「本当に居たんだね……もう一人の私……」
きょとんとする自分の姿を見て、琥珀はどこか腹立たしく思う。
「あなたの事はどう呼べば良いの? フリーレン?」
豪華な部屋を一瞥しながら琥珀は尋ねた。
もう一人の自分は笑顔で答える。
「今は琥珀ハイドラになったよ」
「へぇ、それは大層幸せな事ね。私は琥珀グリムソウルになったよ」
「そうなんだ。まぁ、あなたよりは幸せかな」
「言ってくれるね。偽物の癖に」
「本当はね。全てを知ってるの。私の体が偽物だと言う事も」
「だったら尚更、悪意に満ちているね」
「まぁね。だって本当は記憶も全て戻ったから」
「どう言う事?」
「私は琥珀フリーレンの魂を持ったクローン体。そしてあなたは私の記憶の一部を持つ肉体……つまりは脱け殻に過ぎない」
「オリジナルの琥珀は私。だから本物は一応、私」
「本当は分かってるでしょ?私なんだから分かっていないはずがない」
「ねぇ……あなたは白雨が憎い?」
「ん、憎いよ」
「そうなんだ。私はグリムソウルを倒したら白雨と一緒に過ごしても悪くないかな。なんて考えてる」
「悪趣味ね」
「私からしたら時雨が憎いよ。まぁ、とてもって訳じゃないけど、私じゃなくてクローンを選んだんだもん。仕方無いと思うけどさ」
「利害が一致していて良かったわ」
「つまり私が言いたいのは、お前と私は既に別人だと言う事。肉体を失ったお前も、魂を失った私も、既に琥珀の名に縛られる誰でもない何かなのよ」
「それには少し同感かも」
「見ていろ……! 私はお前と違って絶望の中で生きてきた……!証明してやる……!絶望の中で生きる琥珀こそが……琥珀なんだと言う事を……!」
「さっきから言ってる事、矛盾してるよ。私からしたら、別人として各々の人生を歩めたら良いな、って思ってる」
「琥珀は報われない……! 絶対に……!」
そう言って部屋を後にする琥珀。
残された琥珀は、静かに溜め息をついた。