二十五話『まぁ、少し期待してる』
あれから行為を終えてしばらく。白雨は再び車を走らせていた。
「少しは落ち着いた?」
片肘を付いて窓から外を眺める琥珀は淡々と尋ねた。
運転に集中する白雨も、また淡々と答える。
「あぁ」
「ねぇ。もしグリムソウルを殺す事が出来たとして、私達はその後どうすれば良いのかな」
「……それは」
「たぶんグリムソウルと決着を付けるのはそう遠くない事だと思うよ」
「だろうな。恐らくあいつは血眼になって俺達を探しているだろう。だから見付かるのも時間の問題だ。きっと時雨の元へも訪れるだろう」
だったら何故、時雨の元へ向かっているのだろうか。琥珀は、白雨の矛盾に疑問を感じざるを得なかった。
しかし、その疑問を口にする前に白雨は話を続ける。
「だからこそ俺達も時雨の元へ急ぐんだ。そこに勝算が残されているから。それにあそこなら時間稼ぎも出来る。決着は恐らくハイドラ領で付く」
「勝てるつもりなんだ」
「あぁ。勝てない戦いはしない主義でな。俺は。勝てるからこそ向かっているんだ」
「だったら尚更、その後どうするの?」
「そうだな……。例えば……しばらくは一緒に過ごさないか?」
「へぇ……一回抱かせて上げただけで心許してくれたんだ」
加えてふざけた野郎だな。とは思う。
「一回じゃないだろう。琥珀を抱いたのは。それに……俺はお前にはずっと心を開いている」
「あんな仕打ちをしたのに?」
「あぁでもしないと、こうして二人生き残るのは不可能だった。違うか?」
「……」
違うかどうかなど、琥珀には判断出来なかった。
つまりは白雨の言葉を完全に否定する事も出来なかった。
もしかしたら、そう言った可能性もあるのかも知れない。
そうして返答に困っていると白雨は、笑顔を浮かべて続けた。
「まぁそれは、これからの行動で示す。見ていてくれ。だからお前さえ良ければ共に過ごそう。お前が見限ったら、そこで別れてくれても構わない」
「まぁ……それも悪くは無いかもね。グリムソウルと一緒に居るよりは遥かにましだろうし」
「その……なんだ……。だから腹の子には罪は無い訳だからさ……。二人で育てていかないか……? ハイドラの血筋の子な訳だしな」
「へぇ……」
それを本気で言っているのだとしたら大した物だ。白雨から出た言葉とは到底思えない。
昔から言葉が巧みだった事を考えると、こうして演技をしている可能性は十二分にある。
しかしまた、白雨が親子関係で悩んで居たのもまた事実。子供としてハイドラ家の親子関係に頭を抱えて居たからこそ、この子供を庇えるのだろう。そこに疑いは無い。
となると、やはり白雨は本気で言っているのだろうか。どちらにしても今は判断出来なくとも、いずれは分かる事だろう。
それこそグリムソウルを倒す頃には……。
琥珀はそこで少し微笑んで返す。
「まぁ、少し期待してる」
と言いつつも、琥珀の中では答えは出ていた。
その答えを胸に秘めつつ、琥珀は白雨と共に、グリムソウルを打開する道を選んだ。