二十二話『もう一人の私は大切にして上げてくださいね』
「もう一人の私は大切にして上げてくださいね」
皮肉しか感じさせないその台詞が、時雨との最後の会話になった。
車を降りて琥珀は、白雨の屋敷へ赴いて行く。
時雨は何も答えなかった。かける言葉も見つからないのだろう。見つかるはずもない。
自身の存在は時雨の今の生活を破壊する可能性が高く、時雨もそのリスクを背負ってまで接触したくは無いのだろう。そんな事は容易に想像出来た。しかしこれで、心残り無く復讐に生きる事が出来る。
「はぁ……これで良かったの」
自答して顔を見上げるとそこには、見るも悲惨な白雨の屋敷が不気味に佇んでいた。
以前は明るく生活していたこの土地が、今では放置されて幽霊屋敷と化している。
「私と同じね」
ぽつりと出たその呟きは、寂れた屋敷へ向けたものだった。
崩れたこの屋敷には地下が存在していた。当然、今も存在している。その証拠に、琥珀は散らかる瓦礫を掻い潜ってその地下室へ辿り着いていた。
「ここに……」
咳をして周囲を見渡す。
最奥の部屋はそこまで悲惨な状況では無かった。しかし埃は酷い。
一刻も早くこんな、きな臭い場所からオサラバしたい所だったが、探し物をしなければならなかった。
「一つ、二つ、三つ」
地下室に存在する大きな金庫を目視で数えていく。そして四つ目。三つ目の金庫の隣に、まだ解放した事の無い金庫が存在している。のはずだが、どう言う訳かその金庫は既に開かれていた。
「どう言う事? ……あ、いや、そう言う事ね」
体の自由権を白雨に譲ってから、面白い程に記憶が流れ込んでくる。それこそ、このままでは本当に自身を見失ってしまうほどだった。
だからこそ、ここに来た。そうしなければ、琥珀でも白雨でも無い者が完成してしまう。
故に、非常に癪な事だが流れ込んでくる白雨からの提案に乗るしかなかった。致し方ない事だ。
脳内で自問自答を繰り返しながら、琥珀は開かれた金庫の奥へ進んで行く。
「この奥に……あった……!」
金庫の奥には、さらに奥へと続く扉が存在していた。実に用心深い事で。
そうして腕を伸ばす琥珀は、その扉を一思いに開けた。
実に衝撃的な光景が広がってきた。