十五話『俺としては仲直りしたいのだからな』
「夢の世界へようこそ。久しぶりだな。琥珀よ」
そう言って両腕を広げ見下すかのような視線を送る白雨を、琥珀は無意識に掴んでしまっていた。
胸ぐらを捕まれて苦しげな表情を浮かべる白雨に、琥珀はそのまま叫ぶように言う。
「お前! 私の体で何をした!!」
「おいおいおい。まずは落ち着け。な? 暴力は何も生まないぞ?」
「お前のせいで私が学園に追われてる。グリムソウルは簡単に私を見捨てた。お前のせいで……!」
「なんだ? お前? 随分とあのくそ野郎に依存したものだな」
ギリ……と歯と歯を擦り付ける音を鳴らして琥珀は白雨を投げ捨てる。
痛々しい音を鳴らして転がる白雨は、よろけながらもなんとか立ち上がり、盛大にぶつけられた頬を撫でながら続けた。
「どちらにしてもフラワーカルティベイトとやらに捕まっていただろう。植物の餌よりマシだマシ。それにあのくそ野郎と離れられて一石二鳥ではないか。俺は感謝される覚えはあってもぶたれる覚えはないぞ……」
「依存なんてしていない……!」
「はいはい。この際、その話をここでしたところで仕形がないだろう」
「お前が……始めた話よ」
「うるさいな。有意義な話をしようと言ってるんだ俺は」
「お前と話す事なんて何もない!」
そう言って琥珀は再び白雨に掴みかかろうと、大股で距離を詰める。
白雨はそれから必死に逃れながら答えた。
「八つ当たりが過ぎるぞ琥珀! まぁ待て! 落ち着け琥珀! 落ち着くんだ! 有益な情報が二つある! 一つはハイドラの力の使い方! そしてもう一つはグリムソウルの弱点だ!」
「……」
そこで歩みを止める琥珀。
それを見て白雨は額の汗を腕で拭いながら続けた。
「どうせ使うなら上手く使ってくれ。傷すらも簡単に治せる素晴らしい力だ。良いか? これはあくまでも俺の力だ。だから俺を敬え」
「は?」
「冗談でもなんでもない。魂が共有されているんだぞ? 俺達は。心を合わせるんだ」
「お前を敬うなんて出来る訳無いでしょ」
「だろうな。まぁでも共通の目標の為に……と建前を用意しても良い。俺と心を合わせるのはあくまでもグリムソウルを殺すため。そう考えてそれまでは協力しようではないか。それだけで強大な力が得られるのだぞ?」
その話を聞いて次の目標が改めて決まった。グリムソウルに復讐をする。揺るぐ事は無い。その為にはやはり、ハイドラの力は必要だとは思える。
琥珀は不快そうに答えた。
「……まぁ、考えておく」
「あぁ前向きに頼むぞ。俺としては仲直りしたいのだからな」
「それは無理。そんな事より弱点は?」
「まぁ、早まるな。まずはハイドラの力に慣れる事だ。それに……もうお目覚めの時間のようだからな」
「あーもう。ほんと使えない」