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十一話『別に迷子なんかじゃないから』

 偶然の出来事だった。それも僥倖(ぎょうこう)とでも言うべきか。

 結局、大した手掛かりを見つける事も出来ずに妖精の国のような雰囲気を放つこのフラワーカルティベイトをただ徘徊するだけの琥珀。そんな琥珀に見知らぬ人物が声を掛けて来たのは、日が暮れ始めた時の事だった。

 普段ならばグリムソウルがどこからともなく現れて迎えに来る時間帯だが、どうやら今回は放置されるらしい。一向に迎えに来ない。それほどに女漁りに必死と言う事なのだろう。

 そうして寝泊まりする場所に困り始めた琥珀に、その見知らぬ人物は背後から声を掛けた。

「ねぇ、おねぇさん。ちょっと良いかな?」

 慣れた様子の声。少々めんどくさそうに振り返った所で、その人物は続ける。

「もしかして迷子だったりする?」

 薄ら笑いを浮かべてそう尋ねたのは同い年くらいか、あるいは少し年下くらいの少年だった。

 もしかして馬鹿にされているのだろうか。と琥珀は少し苛立ちを感じたのか、

「別に迷子なんかじゃないから」

 髪を払って不満げにそう返すと、この場から去るように足早に進んで行く。

 その後に続いて、少年はさらに尋ねた。

「迷子に限ってそう言うんだよね。おねぇさん実は旅人だったり?それとも、保護者とはぐれたのかな?」

 後半は明らかに馬鹿にするかのような発言とイントネーションだった。

 当然琥珀は、

「保護者なんか居ない」

 と答えるしか無く、対して少年は何故か嬉しげな様子で琥珀の前に回った。

「じゃあやっぱ旅人なんだ! ここは綺麗な場所だからね!おねぇさんは何の目的で??」

「それは……」

 突然切り出された問い掛けに、言葉を失う琥珀。

 何の目的があって話し掛けてきたのか。むしろ聞きたいのはこちらのほうだった。

 どちらにしても、まさか人を殺しに来たと言う訳にもいかないので、ここは適当に誤魔化しか無かった。

「ひ……人探し」

「ふーん。人探し……ねぇ。もう周りは暗いけどまだ探すの?」

 少年に言われて、琥珀は周囲を見渡す。

 辺りは既に薄暗かった。人通りも大きく減り、人探しをするにはもう遅い時間なのは明白……そもそも、それ以前に時間帯を問わず手掛かり一つも無い中で人を探すなど端から無理な話だった。

 琥珀はそこで大きな溜め息をつく。

 もっと言うと人など探して居ないで、先に寝泊まり出来る場所を探す事が先決だった。

「もう今日は探さない。泊まれる所知らない?」

「だったら、(うち)に泊まりにおいでよ!」

「えー……」

 えー。と咄嗟に言った所で、金がびた一文も無い事を思い出す。

 危険な誘いではあるが、野宿をする事を天秤に掛けると悪い話では無かった。最悪、乱暴されそうになっても力付くで逃げ出せば良い。

「そんな事を言わないでよー。旅人から外の世界の話を聞くのが、僕の趣味なんだ」

 手を合わせて歩み寄ってくる少年。

 この人懐っこい態度で接されると、時雨を思い出して不快だったが、この誘いを断れる状況では無かった。野宿する方がよっぽど危険である。

「うーん……じゃあ一日だけお世話になろうかなぁ……」

 はっきり言って僥倖でしかなかった。

「はいよろしくね! ところでおねーさんは、誰を探していたの?」

 それを聞いてどうするのか。言った所でなんにもならないが、テア家がこの少年の知人である僅かな可能性に掛けて、琥珀は答えた。

「テア家よ」

「えー!? ほんとに!? な、なんで!?」

「な、なにをそんなに驚く事があるの?」

「だ、だって僕の名前……テアだから……」

 偶然の出来事だった。そして何よりの僥倖だった。

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