八話『死ねば良いのに』
「ふぁーあ。まだ着かないの?」
「まぁ、そう焦らないでよ。もう少しだからさ」
車を運転するグリムソウルを他所に、琥珀は退屈そうに小さく伸びをした。
今の時刻は午後0時の正午。いつもなら、とっくにお昼御飯を頂いてる時間だと言うのに当然のようにそれも無く、それどころか朝からこんな狭い場所にずっと閉じ込められっぱなしで、気分はすこぶる悪るかった。
それを体現するように琥珀は朝から止まらない欠伸を、また重ねる。
グリムソウルも琥珀のその様子に気付いてか、いつもに増して口数が多くなっていた。
「窓、開けて良いよ。……そうだ、サウンドを流そう。俺好みの曲があれば良いんだけど」
そう言ってグリムソウルがカーステレオを弄ると同時に、琥珀が窓を開けていく。
太陽は既に上がりきっていた。
そして車窓から眺める景色は、その日光を追い求めるかのように生い茂る植物しかなかった。
山道山道山道。曲がりくねる山道を車で走り抜けるのは最初こそ爽快感もあり、それなりに楽しかったがこれだけ景色に変化が無いとさすがに飽きてしまうと言うもの。
はぁ……。と溜め息を付いて琥珀は窓の外へと顔を出す。
「……温かい」
寒い地方は既に抜けたのだろう。
心地よい風が自身の髪を激しく揺らす。
そこで不意に前方に視線を向ければ、なにやら見慣れない物が目に入った。
「あれなに??」
それを見て疑問に思う琥珀が車内に戻ると、既に陽気な曲が流れていた。
グリムソウルは曲に合わせて、木目調のハンドルを指で叩くと運転の疲れを吐き出すかのように答えた。
「見えてきた見えてきたっと……。あれはね、フラワーブリッチって名前の橋だよ」
「フラワーブリッチ?」
「俺達が今向かっているのは、フラワーカルティベイトと言う名前の領地。名前の通り、植物や花を大切にしてる国で、あの橋がその国への入り口」
「ふーん」
聞いておいてなんだが、あまり興味が無さそうに答える琥珀は再び窓の外から今度は身を乗り出すようにして前を見つめる。
グリムソウルの言うその大きな大きな橋の下には、これまた大きな大きな川が流れていた。アクア領が湖の中に存在しているように、どうやらフラワーカルティベイトは巨大な川の中で島のように存在しているようだ。
そこで琥珀は落ち着きも無くまた車内に戻って尋ねた。
「あそこにテア家が住んでいるの?」
「そうだよ」
「ふーん。じゃあ私、殺しに行くけどあなたも来るの?」
「いや、俺は止めておくよ。別行動だ」
「……じゃあ何をするの?」
「女漁り」
珍しい事もあるもんだと思えば、この回答だった。
自身も日常会話のように人を殺めると言う事を宣言しているが、別にそれを当人に言っている訳ではない。
勿論それでも異常な発言には変わりは無いのだが、こいつは毎日抱いている女に対して、あのような発言を平然と言ってのけた。
どんな思考回路をしているのか。まぁ、そんな事をグリムソウルに追及しても仕方がない事なので、些細なお返しとして琥珀は小さな声で呟いた。
「死ねば良いのに」