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三話『お前……琥珀か……?』

「おはよう。琥珀ちゃん。お目覚めの時間だよ」

 煩わしい声がする。朝、決まって起こされる側なのはいつもの事だったが、どういう訳か今回は特に苛立ちが強かった。このまま無視して眠むりこけるのも悪くないが、そうするときっと面倒くさい事になるのだろうな。と容易に想像できた琥珀は、故に重い瞼を開けた。

 その瞬間、窓からの朝日が琥珀を強烈に照り付け、思わず目を細めてしまう。同時にこの間ずっと呼び掛けてくる声がさらに鬱陶しかった。

「おーい。琥珀ちゃん? おーい。やっと起きた? 琥珀ちゃーん」

「うるさいなぁ……」

 徐々に意識がはっきりしていく。透き通った朝の肌寒い空気が琥珀の頬を撫で、しんみりした部屋に鳥の囀ずりが綺麗に響き渡る。

 琥珀は目を擦りながら上半身を起こした。

 被っていた毛布がずり落ちて肩が露出し、一気に体温が奪われていく。

 こんな寒い朝で、どうやらグリムソウルは窓を開けていたらしい。

 木枯らしに茶色の髪が揺らされる中、琥珀はグリムソウルを睨んで言った。

「なんで窓を開けっ放しにしてるの?」

「その方が目を覚ます確率が上がるでしょ?」

「……」

 確かにそれはそうだろうが、わざわざそんな人が嫌がるようなやり方をしなくとも良いんじゃないか? 

と思う。

「別に普通に起こされても起きるよ」

「またまたぁ~。無視して二度寝するつもりだったでしょ」

「……うるさいなー」

「それはそうと琥珀ちゃん。シャワー浴びて来なくていいの?」

「……え?」

 うつ向いて自身の体に視線を向ける。

 するとそこには上半身を露出した自分の体が、寒さからか鳥肌が立てていた。

「……あ!」

 琥珀はすぐさま上半身を毛布で隠すと、そのまま立て続けに昨日の事を思い出したのか、グリムソウルを横目で睨んだ。

 対してグリムソウルは楽しげに言った。

「いくら脱ぎ癖があると言っても、自分が裸かどうかくらいすぐに分かろうよ」

「はぁ。最低」

 大きな溜め息を残して琥珀は、浴室へ向かった。








「おーい琥珀ちゃん。もしかしてまだ怒ってるー?」

 治安が悪そうな街の中をすたすたと足早に歩いていると、背後からグリムソウルが手を降って追い掛けてくる。

 他人の目を引くので止めて欲しい所だったが、もっと気になるのはそんな事よりも……どうやらグリムソウルは、約束を守るつもりは毛ほどにも無いようだ。

「約束は?」

 振り向いて冷たく言い放つ。

「……??」

 するとここで、グリムソウルが真剣に困った表情をして頭の上に疑問符を並べて始めた。

 そもそも約束自体を忘れているようだ。

「付いてこないで」

「そう怒らないでよ」

「怒るよ。昨日の事も今の状況も」

 そう言って琥珀はスラム街を、どんどん歩き抜けていく。

 どこにも貧困してる街はあるものなんだな。と率直な感想を漏らしつつ、後ろで何か言ってるグリムソウルを無視して進んでいくと、不意に中年の夫婦が目に入った。

 するとどういう訳か中年の夫婦もこちらを凝視しているではないか。

「……え?」

 あまりにも突然な事に立ち止まる琥珀がその場で言葉を失っていると、夫が恐る恐る尋ねた。

「お前……琥珀か……?」

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