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二話『もうあなたは私の主じゃない』

――おい起きろ。琥珀――

 どこかで聞いた覚えのある声がする。

 鬱陶しい。それがその声に対する最初の感想だった。

――聞こえているのだろう? 目を開けろ。琥珀――

 さっきから偉そうな事を言っている人物が誰なのか。実はおおよそ検討はついていた。

 このまま無視を続けても良いが、切りが無さそうなので、瞼を開ける事にする。

「久し振りだな」

 目前でその人物がにやりと笑ってそう言った。

 やっぱりな。と言う実な率直な思いを抱いてしまう。

 どういう訳か琥珀は、ただただ真っ白の空間で突っ立っていた。そして目前では、水色の髪色をした少年が腕を組んで笑顔を浮かべている。

「白雨……」

「呼び捨てとは、ずいぶんと偉くなったものだな。琥珀よ」

「もうあなたは私の主じゃない」

「そうだな」

「……ここはどこなの?」

「まぁ、そう焦るな」

 白雨と呼ばれた少年はそこで、胡座をかいて座り込む。

 そしてそのまま床を軽く叩いて、琥珀の顔を見上げた。

 簡単な動作だが、意図している事は分かる。

 願わくは無駄話は避けたい所だったが、どうやらそうはいかないらしい。

 琥珀は溜め息を付いてその場に腰を落とした。

「それで? ここはどこ?」

「……さぁな」

「はー?」

 どうしてこうも契約の魔法使いはどいつもこいつも煩わしいのか。

 正直な所、一人の例外も無く契約の魔法使いは大が付くほどに嫌いだった。そう、グリムソウルしかり白雨しかり、そして時雨しかり。皆、自身を裏切った事に違いはない。

 そうして琥珀が怒りを表情に出している事に、少々驚いた様子の白雨が慌てて言った。

「ま、まぁ落ち着け。ここがどこだかは分からないが、今はお前の夢の中だと言うのは分かる」

「へー」

 まぁ、そんなとこだろうな。と既に推測出来ていた事を得意げに言われても、ただただ苛つくだけだった。

「じゃあ、もう目を覚ましても良いですか?」

「まだ話は終わっていない。俺にはまだ分かっている事がある」

「……」

 琥珀は何も答えなかった。

 もはや相手をするのも面倒くさい。話したければ勝手に話せば良い。こちらはこちらで勝手に目を覚まさせて貰うとする。

 そうして頬をつねる琥珀に、白雨は慌てて言った。

「復讐だ!」

「……!」

「そうなのだろう?」

「……もちろん、このまま終わるつもりは無いよ」

「俺も協力する」

「……ばか? 誰がそんな言葉を信じるの。それに今のあなたに、なにが出来るの?魂を二つに割られ、私の中に閉じ込められている分際で」

 白雨は奥歯を噛み締めて何も返してこなかった。

 夢の中とは言え、恨みに恨んだ相手にこうして悪態付くのは心地良い。

 自分も堕ちたものだな。と自身の性格の悪さに思わず冷笑していると、何を思い付いたのか白雨が抱き付いてきた。

 あまりに突然な事に琥珀は反応出来ず、白雨からのハグを許してしまう。

「や、やめっ! 離れろ!」

「後悔しているのだ!!」

 全力で嫌がって見せたが、唐突に白雨が叫びだした。

 思わず動きを止めて琥珀は尋ねる。

「なにが……?」

「お前を裏切ってしまった事を……!」

 何を言い出すかと思えば、飛び出してきたのは苦し紛れに出た嘘だった。

 もちろんそんな嘘に付き合うつもりは毛頭無いので、さっさと振りほどいて離れたい所だったが、なにやら白雨の様子がおかしい。

「……なに?」

「すまない……すまない……!」

 白雨は鼻をすすって泣いていた。

 しかしこの男、嘘泣きをする可能性は大いにある。

 どちらにせよ夢の中とは言え、涙で汚されるのは気分が良いもので無いので、力任せに振りほどく事にする。

 幸い、白雨は髪が青い状態だ。

「良いから離れて」

 そう言って琥珀は簡単に白雨を突き放す。

 そうして地面で尻餅をつく白雨が、目の回りを赤くして琥珀を見上げた。

「俺はなんの躊躇もせずお前に力を貸す。だから……! 必要であれば言ってくれ……!」

「今の、か弱いあんたに借りる力など無い」

「うぅぅぅ……!」

 床に顔を伏せて泣きじゃくる白雨。情けない。気分が悪い。

 そうして膨らむ怒りを落ち着かせる為、深呼吸する。

 するとどういう訳か、またそこで意識が遠のいていった。

 夢の中で見た最後の光景は、泣きじゃくる以前の主……と実に胸糞が悪くなるものだった。

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