一話『体を差し出しているんだから、もう良いでしょ』
「なかなか子供ができないなぁ」
行為を終えて、煙草に火を着けるグリムソウルが最初に言ったのは、そんなふざけた言葉だった。
琥珀は備え付けのティッシュを数枚取り、汚された体を拭きながら答える。
「子供……? 冗談じゃない」
その返事には、怒りと驚きを足したような意味合いが含まれていた。
何が楽しくて、この男との間に子供を作らなければならないのか。
しかしそうして否定するも、実際には工程を踏んでしまっているのは事実。今は、そうならない事を祈るしか無かった。
ここで暇になったのか、グリムソウルが煙草の煙を吹き掛けてくる。鬱陶しい。
眉間にシワを寄せて、琥珀は手で煙を扇ぐが、そうして嫌がる琥珀を見て、グリムソウルは楽しげに言った。
「まぁでも、やる事はやってる訳だし、出来てもおかしくはないはずなんだけどなぁ」
「……魂が欠落してるからなんじない?」
適当にあしらうように琥珀が答える。
そこにグリムソウルは珍しく目を輝かせて言った。
「なるほど……! それは大いにありえそうだ。やるう、琥珀ちゃん。着眼点が良いね。このまま経過を見守るか」
あぁ、めんどくさい。そんな思いを全面的に表情に出して、琥珀はベッドから立ち上がる。
「シャワー浴びてくる」
そうして浴室へ向かおうとする琥珀の手を、どういう訳かグリムソウルは握って阻止する。
怪訝そうな顔で琥珀は振り向くと、グリムソウルはにやりと笑って言った。
「経過を見守るって言ったでしょ?」
「はー?」
まさか他人の体液を体の中に入れっぱなしにしろと言うのか。
そしてそれが、どれほど気持ち悪い事なのか。押し付ける側だとしても、想像するのは難しくないだろう。とことんふざけた野郎だ。
琥珀はグリムソウルの手を払う。
「ふざけないで。気持ち悪い。体を差し出しているんだから、もう良いでしょ」
「まぁまぁ」
なにが、まぁまぁだ。と涌き出る怒りを拳を握り締めて堪える琥珀は、再度手首を掴もうとするグリムソウルの手を、手の甲で叩いてはね除ける。
なんとしても、この男から逃れなければ、短い一生を貢物として捧げてしまう事になる。それだけは避けなければ。と、これからの事を考えながら浴室に向かう琥珀。
すると背後から、グリムソウルの嘲笑混じりの声が聞こえる。
「大人しく眠ろうね。琥珀ちゃん」
嫌な予感がして、琥珀は背後へ振り返った。
しかしそこで途端に意識が遠のいていく。
そしてその声が、今日最後に聞いたグリムソウルの言葉だった。