十六話『見ましたね……? 変態ですよ……?』
朝、少女は寒気により目が覚めた。特に腹部が寒い。
「お腹……出して寝ちゃったかな……」
はっきりとしない意識の中で少女は腹部に手を置いた。案の定、素肌が触れる。
自分の寝相の悪さに嫌気を刺しながらも、少女は捲り上がっているであろう寝間着の裾に手を伸ばしていった。
しかしそこで強烈な違和感を感じる少女。
と言うのも、どれだけ手を伸ばしても一向に裾を掴む事が出来なかったのだ。
そして裾を求めて追いかければ追いかけるほど少女の中で、嫌な予感が強まっていく。
ふにっ。それが裾を追い求めて先で、少女が手に感じた感触だった。
「まさか……」
少女が重たい上半身を起こして確認すると、そのまさかだった。
裾は不自然なまでに捲り上げられ……そして完全に露出していた。
嫌な予感は的中してしまって訳だ。
これはどう考えても少年の仕業。そうとしか思えない。
「これは一体どう言う事ですか!」
慌てて裾を下ろし、辺りを見渡す。
すると少年が机に向かって腰掛け、何かをしていた。
「あなた様の仕業ですね……!」
睨む少女。
少年はそこで一息付くと立ち上がり、一枚の紙を少女に手渡した。
少女が怪訝そうな表情でそれを受け取ると、上から下へ一瞥する。
それは絵だった。それもきっとこの少年が描いた物なのだろう。
「上手……ですね」
はっきり言ってその通りだった。
寝ている自分を描写している。
何とも言えない自分の幸せそうな寝顔まで巧みに描かれていた。
恥ずかしい……。とは一瞬思ったが、少女はこの絵に一つ激しく気に入らない事があった。それこそ寝顔の恥ずかしさなどすぐに忘れてしまうほどの。
「何で胸を露出させているんですか!」
自身もそうだったが、絵までもしっかりと露出させられていた。
これでは変態ではないか……!と少女は自分の哀れな絵をまじまじと見て、心の中で嘆く。
そこへ少年は、得意気な表情をして言った。
「芸術性を感じてな。これは後世残すべき一枚に仕上がったと自負している」
後世に残すべき……!?ふざけるなと少女は思わず口走りそうになるのを、握られている紙を丸める事によって抑える。
なぜ自分のこんな姿を受け継がれなければならないのか。そんな事を許可してしまっては一生どころか死しても尚、辱しめを受ける事になる。
それは絶対に阻止しなければ……と少女は使命に近いものまで感じた。……それはそうと少年へ視線を向けると、紙を丸めてからずっと硬直し続けている。
この絵がよほどの自信作だったのだろうか? 少女は多少の罪悪感は感じたものの、やはりそれは自尊心を曲げるには値しなかった。
「あなた様。絵がお上手なのは分かりました。ですが世の中には肖像権と言うものがあるのです」
「俺の大作を丸めておいて、さらに説教だと!?」
「私だって当然の権利くらい主張しますよ。第一、寝てる時に寝間着を捲り上げられて怒らない女子は居ないので……す?」
少女はそこで口ごもる。
そうだ、良く良く考えたら寝間着を捲り上げられたと言う事は、当然そのまま胸も見られたと言う事になる。絵にも描写されたようにそれは確実……。
昨日の何もしないと言う言葉は嘘だった言う訳だ。
少女は寝間着の上から胸を両腕で隠すように抑えて言う。
「見ましたね……? 変態ですよ……?」
少女の問いに少年は思い出したかのように、にやける。
「素晴らしいの一言に尽きる。まさしく美乳だった」
開き直りやがって……と少女はそこで反論した所で権力に押さえ付けられる未来を容易に想像して、聞こえない程度に舌打ちする。何が美乳だ。褒めれば済むと思うなよ。と付け足して言いたい所だったがそれもグッと堪えた。
「もう……なんと返せば良いのか……。言葉の一つも浮かびません」
「ありがとうごさいます。で、良いと思うぞ」
その少年の発言を最後に、少女は黙って部屋を出て行った。
少年も少女の後を追いかけて弁明したが、しばらく口も利いてくれはしなかった。